
『スター・ウォーズ:アコライト』のクリエイター、レスリー・ヘッドランド
レスリー・ヘッドランドがオーシャ・アニセヤとメイ・アニセヤの物語である『スター・ウォーズ:アコライト』(2024)の物語を紡ぎ始めた当初、彼女はジェダイを彼女たちの敵として設定するつもりではなかった。
「私はただ、ジェダイを人間──あるいは人間と同様の感情を持つエイリアン──として描写したいと考えた」のだとヘッドランドは語る。「ジェダイだって普通の人みたいに間違いを犯すこともあるのだと言いたかった」
ネタバレ注意:この記事には『スター・ウォーズ:アコライト』シーズン1最終話のストーリーについて詳しく述べられている箇所があります。
現在ディズニープラスで絶賛配信中の『スター・ウォーズ:アコライト』第1シーズンは、ジェダイ・オーダーを悩ませる謎の暗殺者「ストレンジャー」の出現を描き、16年の長きにわたり多くの登場人物たちを煩悶(はんもん)させてきたダークな秘密についての──そしてさらに言えば──光と闇、善と悪の間のグレーゾーンを探求する物語である。ジェダイの黄金期には、かように名高い騎士でさえも恐怖に囚(とら)われ、ミスを犯してしまうことがあったのだ。
「この番組で探求したかったことのひとつは、見方によっては誰もが悪玉になり得るという点ですね」とヘッドランドは言う。「そしてまた別の見方をすれば、誰もが善玉になり得る。最初から自分を悪者なんだと思ってる人はいませんよ。誰もが、自分にとって最善だと思うこと、または期待されていること、あるいは自分がいる組織や家族、自分がいる世界、そういった枠の中における大事な特定のパラダイムや理想に自らを合わせようとしているだけなんです」
ヘッドランドは、マザー・アニセヤ(ジョディ・ターナー=スミス)の言葉を借り、こう付け加える。「本当に重要なのは善悪ではない。大事なのは力であり、何者がそれを使うことが許されているか、なんです」
物語のエンド・ロールが流れる頃には、多くのジェダイが悲劇的な最期を迎える。そしてマスター・ヴァーネストラ・ロウ(レベッカ・ヘンダーソン)はヨーダとの大事な話し合いに備えることになる。そして、疑問はますます深まるばかりだ。マスター・ロウはこの長老に一体何を明かすのだろうか、と。
メイの任務が完了し、マスター・ソルとブレンドクの4人が死亡したことにより、ヴァーネストラはフィナーレにおける衝撃的な展開において、難しい決断を下す。胸が締め付けられるような驚がくの展開が続く中でもとくに衝撃的なシーンは、元老院の法廷に立ったヴァーネストラが、インダーラ(キャリー=アン・モス)、トービン(ディーン=チャールズ・チャップマン)、ケルナッカ(ヨーナス・スオタモ)の殺害をソルになすりつける場面だ。この驚くような行動は、ジェダイ・オーダーという組織を守るためならば、マスター・ヴァーネストラ・ロウはそこまでのことをやってしまうということを示している。
「この時点、物語の終わりまでに、ヴァーネストラはどうすべきなのか相当に迷っていた」のだとヘンダーソン。「彼女は自分が正しいことをしているのだと信じている、と私は思います」
ソルに別れを告げ、上記の犯罪をこの愛すべきキャラクターに押し付けてしまうのは、ヴァーネストラを演じたレベッカ・ヘンダーソンにとって非常に心苦しいことだった。
「私、レベッカはイ・ジョンジェを大好きだったから、なぜか彼に対してそうしているような気がしてならなかった」と彼女は言う。マスター・ロウは、ソルがジェダイ聖堂で幼少期に訓練をしていた頃からの旧知の仲だが、2人が初めて画面に登場した際には、そのことがはっきりと示されていた。
「最終エピソードは最初から最後まで、演じていて感情的にグッと来るものがありました。ソルの遺体を見たときなど、胸が張り裂けそうになりましたよ。彼女が彼の頬に触れて謝るところなんか、大好きです。彼女は自分がしなくちゃならないことをわかっているから」
重層的なマスター
イ・ジョンジェはマスター・ソルとして、じつに人間的な感情に満ち満ちた細やかな演技を披露した。これは、ジェダイを不完全な存在として描こうとするヘッドランドの意向をよく理解したゆえのものであり、オーシャへの父性的な愛着や、ストレンジャーの手によって殺害された弟子やコーファー上陸チームへの、途方もない、ほとんど暴力的といってもいいほどの悲しみと怒り、の発露によく表れているといえよう。第6話で苦悩と格闘する部分では、ソルは自身を責めている、とイは考える。
「こんな惨事は起こるべきではなかった、と。彼は大きな責任を感じているんだ」とイは語る。
イは全話を通し、このジェダイ・マスターの禁欲的な外面と感情的な内面の二重性を深掘りしてきた。
「役作りにおいては、この人物の一側面だけを強調するのではなく、多層的な人物であることを示したかった」とイは言う。「ジェダイ・マスターは強くて、勇敢で、恐れを知らない、という固定概念があるけれど、マスター・ソルは実際のところ、恐れを抱いている。過去の過ちを思い出すときなど、彼は本質的に大きな不安のようなものを抱いていると思う。だから、私にとっては、彼の両面を見せることは非常に重要だった」
イはまた、役に備え、リーアム・ニーソン演じるクワイ=ガン・ジン等、定評のあるジェダイ・マスターたちを見て研究を行った。
「マスター・ソルと過去のジェダイ・マスターたちとのつながりを見つけたかった」とイは言う──スター・ウォーズ銀河では、彼らは未来のジェダイではあるが。「私はソルに、同じような特徴、哲学、考え方、心を持たせたいと考えたんだ」
ヘッドランドはショーランナーとして、脚本がまだ未完成の段階から、ソルのバックストーリーやその悲劇的な結末をイに理解してもらおうと考えていた。
「ソルがどんなふうに成長し、どんなふうにジェダイになったのか。彼が抱えているあらゆる秘密、そしてそういった秘密に対し彼がどう感じているのかについて、数え切れないほどレスリーと話し合った」とイは言う。「『アコライト』の物語は、本当に彼女の思いから生まれたものなんだ。だから、いつでも彼女に相談することができた。撮影を始めたときは、ストーリーの結末はわかっていなかった。脚本は最初の4話分しか完成していなかったから」
最終話のページが届いたとき、イは落ち着かなかった。
「読んでいて緊張で手が汗ばんでいた」ことを彼は認めている。「物語が進むにつれ、各キャラクターの心理に激しい変化が起こるのがよくわかった。とくにソルは、感情のスペクトルがすごく広いから。それはすごくうれしかったし、彼を演じることができてラッキーだと思ったよ」
ジェダイにおける人間性の探求は、ファンに大人気のジェキ・ロン(ダフネ・キーン)とヨード・ファンダー(チャーリー・バーネット)にも及んでいる。このふたつのキャラクターを演じた俳優たちは、その役柄におけるさまざまな側面を探求する機会を大いに楽しんだ。
「スター・ウォーズにも人生にも、たくさんの二重性がある」とバーネットは言う。「私は混血で、養子でもあるけど、これも二重性のひとつだと思う」
「二重性のない人間などいません」と、半シーリン半人間のジェダイ・パダワンを演じるキーンが付け加える。「そういった二重性を描写することや、人間の不完全さを経験することは、とても美しいこと」
そして、二重性は、はるか遠くの銀河では決して新しい考えではない。たとえば、アナキン・スカイウォーカーとパドメ・アミダラを考えてみよう。ジェダイの騎士はナブーの元老院議員と恋に落ち、密かに結婚する。それゆえ2人は二重生活を送ることになり、悲劇的結末を迎える。
「子供の頃ヘイデン・クリステンセンの演技を見て、『違う! ジェダイはみんな完璧のはず。これは自分の知っているジェダイじゃない』と思ったのを覚えてる」とバーネット。「そして大人になって、そのことを振り返るとき、『いや、これこそが人間なんだ』と思うんだ」
善と悪
物語全体が16年前のブレンドクでの出来事に端を発しているが、ヘッドランドはふたつの視点からそのストーリーを語ろうと考えた。第3話では魔女団からの視点を中心に、第7話では惑星を訪れたジェダイから見た新鮮な視点でそれを語っている。
「エピソード群が鏡写しのようになっているというアイデアは大変気に入っています」とヘッドランドは言う。「このドラマには二重性という大きなテーマがあります。双子もそうだし、ソルが半分に分かれているというのもそう。ジェダイとしての義務とオーシャに対する父親としての愛情ね。このふたつは共存できないのに、彼はそうしようとする」
最初は、ジェダイが魔女団および彼女たちの生き方に介入しているように見える。しかし、2回目のフラッシュバックでは、魔女たちが子供たちに向ける愛情を、ソルが誤解してしまうに至った一連の流れを、よりよく理解できるようになっている。また、彼はオーシャを救おうともしている。
「彼はオーシャをほとんど利己的なやり方で愛している。つまり、彼女にとって何が最善かを自分はよく知っていると思いこんでいる」とヘッドランドは言う。「インダーラはソルに対し、そんなことを決める権利はあなたにはない、と釘を刺す。そこが、彼の愛がゆがんでいる部分なんです」
『スター・ウォーズ:アコライト』は『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999)およびスカイウォーカー・サーガ(アナキン・スカイウォーカーの興亡からジェダイ・オーダーの滅亡、そして帝国の勃興)といった、後の世に展開される出来事を変えるものではないが、時間の経過とともに勢いづき、広範囲にわたって影響を及ぼして大問題に発展しうる個人の失敗に焦点を当てることで、未来の崩壊をじつに巧みに示唆している。
「悪玉が必ずしも自身を悪だとは思っておらず、じつのところ、彼らの行動が善である理由を大いに正当化できる物語を描けるのだとしたら、それは私にとってすごく重要だと感じたんです」とヘッドランドは語る。これはストレンジャー(マニー・ジャシント)とその計画のことを指している。
「『アコライト』のテーマは二重性と反映なので、善玉も自分の悪い部分を認めなければいけません。私は別にジェダイを悪者と見ているわけではなくて、ただ彼らには欠陥があるのだと考えています。そして、『アコライト』は、私が皆さんにお届けするのを本当に楽しみにしていた物語だったということなんです」
『アコライト』のメイキングに関し、さらに詳しく知りたい向きは、StarWars.comによる以下の記事をご覧あれ。
- アマンドラ・ステンバーグが『アコライト』にかける抱負
- 『スター・ウォーズ:アコライト』のジェキとヨードに愛をこめて
- 『アコライト』ショーランナー、レスリー・ヘッドランド・インタビュー
- ハイ・リパブリックのジェダイ、暗殺者のコスチューム
- 『アコライト』クリーチャー・ショップの秘密:ティナンの「追跡者」バジルとは?
- 『スター・ウォーズ:アコライト』魔女団の制作舞台裏
- 二つの金属:コルトシスとベスカーの探究
- 『アコライト』のクリーチャーやジェダイの武器について
Starwars.com 2024/7/17 の記事
筆者略歴
StarWars.comのチーフ・エディター、クリスティン・ベイバーは「Star Wars: 100 Objects」を始めとする数々の書籍の著者であり──そしてご存知の方もおられようが──「This Week! In Star Wars」の主催者でもある。その尽きることのない好奇心ゆえ、どんなときもあとひとつだけ質問したくてウズウズしてしまう、SF全般を得意分野とするナード(オタク)の彼女はサイ・スヌートルズの大ファン。ぜひInstagramにアクセスし、@KristinBaverをフォローしてほしい。