1989年に製作された劇場版長編アニメーションを基に舞台化した、劇団四季ディズニーミュージカル『リトルマーメイド』。地上の世界に憧れを抱く好奇心旺盛な人魚、アリエルの恋と冒険が描かれます。美しい声を持つヒロイン、アリエル役のひとりである小林由希子さんに、『リトルマーメイド』の舞台裏や魅力についてうかがいました。
――ディズニー映画「リトル・マーメイド」はご覧になっていますか?
小さい頃からアリエルが大好きで、DVDも持っています。私の幼なじみも髪の色をアリエルのように赤くしたことがあるほどアリエルが大好きで、この作品に出演することが決まったときも、とても喜んでくれました。子どもの頃はアリエルの外見のかわいらしさに惹かれていたのですが、大人になり、彼女の内面を知るにつれ、夢を叶える意志の強さがあるところに魅力を感じるようになりました。
――アリエルを演じるうえで参考にしているところはありますか?
「パート・オブ・ユア・ワールド」はアニメーションでも大好きなシーンで、毎回出演する前には必ずチェックしています。舞台では映像と違い限られた空間で演じるので、映画のアリエルが集めたコレクションがたくさん出てくるシーンを思い浮かべてイメージを広げています。
――フライングをしながら歌い、お芝居をするために、どのようなトレーニングをしたのでしょうか?
基本的な筋力トレーニングに加え、体幹を鍛えるトレーニングやバレエのバーに乗りながら歌うトレーニングもしています。稽古場にはフライングの装置がないため、限られた時間のなか、劇場で稽古を行います。最初の頃は、地に足がついていない状態で発声することになかなか慣れませんでした。吊られていない海上でのシーンでも、体を波打たせるようにずっと動かしているので、それも大変でした。
――水中にいることを表現する独創的な髪型や、美しい衣裳も印象的です。
はじめて髪型を見たときは衝撃的でした(笑)。でもあの髪型になると自然と意識が変わりますし、あまり重さのないかつらなので付けていても違和感はありません。衣裳もヒレの部分が風をはらんで美しく動いてくれるので、演じていても心地いいです。アリエルを演じるうえで、髪型や衣裳にも助けられていると感じています。
――たくさんの魅力的なキャラクターが登場しますが、アリエル以外のお気に入りは?
フランダーがお気に入りです。アニメーションのフランダーは小さくて、とても愛らしいですよね。いつもアリエルのことを思っていて、後ろからついていく姿がとてもかわいい。舞台でのフランダーの髪型は後ろを三つ編みにしていて、そのあたりもかわいいので、ぜひ注目して観ていただければと思います。
――四季版ならではの見どころを教えてください。
アリエルが夢に向かって道を切り拓いていく過程が、フランダー、スカットル、セバスチャン、お父さんのトリトンとの関係性のなかで描かれているところです。それぞれとの関わりがより深く表現されているので、どのキャラクターの目線で観劇するかで印象が変わるかもしれません。たとえば男性からは「お父さんの目線で観劇し、娘を想う気持ちに胸がいっぱいになりました」という声を聞くこともあるんです。父親にとっては娘の成長や自立は切なくもあり、うれしいことでもあるんでしょうね。世代や性別によってさまざまな感想を持っていただけるところが、この作品の魅力だと思います。
――アリエル役の候補になってから本番出演までは、どれくらい稽古をしたのですか?
私の場合は3ケ月程かかりました。演出家に何度も見ていただきながら歌やセリフの稽古をしていたのですが、なかなかOKが出ませんでした。アリエルは天真爛漫なキャラクターですが、私自身は慎重派。自分のなかから弾ける要素を引っ張り出すことに、難しさを感じました。この役を演じるようになってからは以前よりもリアクションが大きくなり、よりポジティブになったように思います。
――作品に出演してから発見したことはありますか?
舞台上でも多くのことを学ばせていただいています。ひとりで稽古をしていると限界を感じますが、舞台上での空気感のなかで生まれてくる感情もありますし、キャストが変わると新しい交流もあり、そういった点も楽しみの一つですね。また、その日のお客さまとの呼吸で雰囲気も変わるので、まったく同じ舞台というものはないんだなと実感しています。
――楽曲の魅力はどんなところに感じていますか?
「パート・オブ・ユア・ワールド」をはじめ、すべての楽曲にアリエルの気持ちの高ぶりや自分への問いかけなど、あらゆる感情が込められています。また、歌詞だけではなく曲にもメッセージ性があると思うので、本番前にはオーケストラの音だけを聞くこともあります。歌わずに聴くことに徹すると、忘れかけていたものを思い出すこともあります。
――公演がある日の一日のスケジュールを教えてください。
例えば13:30公演ですと、私の場合は9時半くらいまでに劇場入りをして朝ごはんを食べます。フライングがあるので開演直前には食べられないんです。それからストレッチや発声をして、全体集合の11時から出演者のみんなでバレエのバーレッスンと開口訓練を1時間程します。
――体力的にもハードな演目ですよね。
この演目は特に筋肉を使うので、出演中は少し痩せてしまいます。それと脚を出している場面も多いので、お客さまの視線を意識することで、少しほっそりするような気がします(笑)。
――劇団四季ディズニーミュージカルのファンの方に、メッセージをお願いします。
いろいろな角度からお楽しみいただける作品ですし、私自身が毎回違う発見をしているように、お客さまにも多くのことを感じ取ってもらえたらいいなと思っています。友情、親子の愛、男女の愛、さまざまな愛がつまっている作品なので、それも受け取っていただけたらうれしいです。
――最後に、劇団四季に入りたいという方へのアドバイスもお願いします。
アリエルを演じさせていただくようになり、「私も四季に入りたいです。どうしたらいいですか?」という、うれしいお手紙をいただくことが増えました。私自身はこの世界に入りたくてずっとバレエを続けてきましたし、アリエルのように自分の夢をかなえたいという強い気持ちを持てば、道は開かれていくはずです。厳しいこともある世界ですが、強い意志を持つ方ならば、きっと夢をかなえることができると信じています。