アニメーターたちは、いったいどうやって真っ白なキャンバスに生命を吹き込んでいるのでしょう。
パスカルを見て思わず笑ってしまったり、カールの心情に深く共感を覚えたり、恋を叶えようとひたむきにがんばるアリエルに憧れたり。ディズニーキャラクターたちは、まるで生きているかのようにみずみずしい感覚を与えてくれます。それはきっと、アニメーターの技術によるところが大きいはず。
その謎を解き明かすためには、まず、アニメーションにおける12の原則を理解しておく必要があります。ウォルト・ディズニー・スタジオに在籍していた2人の伝説のアニメーター、オーリー・ジョンストンとフランク・トーマスによって有名になった12の原則。現在でも、アニメ業界を志す人々は全員学んでおかなくてはならない基本中の基本とされています。
オーリーとフランク、実は『Mr.インクレディブル』(2004)の最後にカメオ出演しています。(そうです、画像のこの二人!)
さあ、彼らが紹介した12の原則が、ディズニー/ピクサー映画にどのように影響しているのかを見ていきましょう。
【1】つぶしと延ばし
Squash and Stretch
キャラクターが動く時、身体を押しつぶしたり、引き伸ばしたりすることで、重さがあるように見せることができます。
ピクサーの短編アニメ『デイ&ナイト』(2010)のワンシーンを見てみましょう。
彼らが踊る時、地面に足がつけば身体はきゅっと縮み、ジャンプをすればぐんっと伸びます。これにより、彼らの身体にかかる重力が表現され、いきいきと踊っているように見えるのです。
【2】予備動作
Anticipation
大きなアクションが起こる直前、より小さな動きを一つか二つ入れておきます。そうすることで、観客に次のシーンで何かが起こると期待させる効果があるのです。
ウサギのとんすけに注目してください。走り出す前に、少し足を後ろに引くのがわかりますか?これが、予備動作です。
【3】演出
Staging
キャラクターのどんな動きも、その意味がはっきりと観客に伝わるようにしなければなりません。
ティンカー・ベルの画像を見てみましょう。
1枚目は大喜びしているところ。2枚目はムッとしているところ。3枚目は、どうやら眠たそうな様子ですね。
このように、一枚の絵だけでキャラクターの状態がはっきりと観客に伝わるようにすることが重要なのです。
また、キャラクターを配置する位置や動きも大切なポイントです。
『ファインディング・ニモ』(2003)のこのシーンでは、水の渦を真上から映すことで臨場感の演出に成功しています。
【4】逐次描きと原画による設計
Straight Ahead and Pose to Pose
「逐次描き」とは、パラパラ漫画のように、キャラクターの動きを順番に一つずつ描いていく手法です。リアリティのある、流れるようなアクションを表現する時には、この方法が適しています。
一方、「原画による設計」は動きのなかでキーになる部分を先に描き、その間を後から補完していく手法。動きのリアリティよりも、キャラクターの感情を表現したい時にはこちらを用いると効果的です。
【5】あと追いの工夫
Follow Through and Overlapping Action
キャラクターの動作は、同時にすべて停止させません。
たとえば、このシーンではムーランの頭が止まった後で、髪の動きが止まります。
この表現により、動きがよりリアルに感じられるのです。
逆に、キャラクターは同時に動くこともありません。『塔の上のラプンツェル』(2010)のシーンでは、ラプンツェルの髪が彼女の身体よりも速く動いているのがわかるでしょうか?
【6】両端づめ
Slow-In and Slow-Out
白雪姫の動きをご覧ください。最初はゆっくり動き、途中で速くなり、また最後に遅くなることがわかるでしょうか?
キャラクターの動きにリアリティを持たせる手法が「両端づめ」です。動作のはじめと終わりに多くのコマを割き、その間はあまり描きません。そうすることで、振り子のような勢いのある動きとなり、いきいきとした感じを観客に与えることができます。
【7】運動曲線
Arc
曲線を意識しながらキャラクターの動作を描くと、自然な動きになります。首を振ったり、腕を上げたりする時、身体が直線に動くことはめったにありません。少しだけ、丸みを帯びた動きになるはずです。このミッキーの映像を見ていると、それがよくわかりますね。
【8】副次アクション
Secondary Action
メインの動きを強調させたい時には、前後にさりげない動きをいれると効果的です。
このシーンではボルトがニンジンをくわえるところを描いていますが、同時に脚をばたばたと動かせることで彼のかわいらしさが際立っています。
【9】タイミング
Timing
動作がどのくらいの時間継続するものなのか、はじまりと終わりのタイミングを設定します。その加減によって、キャラクターにあわせて動きをてきぱきとさせたり、のんびりさせたりすることができるのです。
【10】誇張
Exaggeration
ディズニー映画ではよく見られるこの手法。そのなかでもとくにすばらしい例がこちらです。
誇張することで、大事な点を強調することができます。
【11】立体感のある描画
Solid Drawings
これは、2Dで表現されるアニメーションでも、3Dに見えるように努力すべきだということをアニメーターに伝える原則です。
このゼウスも、3Dのように重みと奥行きが感じられますよね。
【12】訴える力
Appeal
すべてのキャラクターを魅力たっぷりに描くのはとてもむずかしいことかもしれません。
この原則では、それでもアニメーターたちは観客の心に訴えかけるようなキャラクター、シーンを追求する必要がある、としています。
これら12が多くのアニメーションに魅力を与えてきた秘密です。この知恵がなければ、今のディズニー/ピクサー映画は存在しなかったことでしょう。
そしてまた、この原則をいかして、これから先の未来にもすばらしいアニメ映画が作られていくはずです。
*本記事の作品公開年はアメリカ公開の年を記載しています
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