毎年開催されるアカデミー賞授賞式。"総合芸術"と呼ばれる映画の最高峰とあり、様々な部門の技術やクリエーションが祝される日。今回は、ディズニー映画の肝となる衣装デザイン賞に注目し、歴代の受賞&ノミネート作品6本の衣装やデザイナーのこだわりを振り返ってみましょう!
『アリス・イン・ワンダーランド』
コリーン・アトウッド
2011年第83回アカデミー賞衣装デザイン賞受賞
ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の実写版『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)でアカデミー賞を手にしたのは、衣装デザイン界のベテランであるコリーン・アトウッド。受賞スピーチでは、ティム・バートン監督のイマジネーションと素晴らしいキャストによって、自分の仕事が歓びに満ちたものになった、と感謝を述べていました。
アリスといえば、アニメーション映画『ふしぎの国のアリス』(1951)の青いパフスリーブのドレスでおなじみですが、『アリス・イン・ワンダーランド』では奇抜なデザインのドレスが続々と登場します。物語の序盤から、アリスはコルセットやストッキングをはかないことで母と口論になるほど、自由な魂の持ち主。おまけに、アリスの体が大きくなったり小さくなったりするときに、ドレスの大きさは変わらないため、体のサイズに合わせて衣装を何度も替えます。幾重にも巻かれたリボンベルトでアンダースカートを持ち上げてみたり、ジョニー・デップ扮するマッドハッターがあつらえたミニチュア・ドレスに着替えたり。他にも、赤の女王から与えられる黒と白と赤のドレスなど、登場するドレスはどれもびっくりするほど個性的!

マッドハッターの衣装小物は、世界中からの掘り出し物にアレンジを加えたもの。帽子はイタリアで見つけたレザー素材に、金の糸で刺繍をほどこしたもの。ハサミや糸、指ぬき、針刺しなどの小物はロンドンのフリーマーケットなどで調達したそうです。

彼がテーブルの上を歩くときに映る靴には、破壊的な文言が刻まれているのだそう。観客の目に留まらないところにもこだわりがたくさん。コリーン・アトウッドによれば、ジョニー・デップは衣装へのこだわりが強く、いつも出演映画の衣装をキープしているのだそうです。

コリーン・アトウッドが特に苦労したのは、ヘレナ・ボナム=カーターが扮した赤の女王の衣装。視覚効果で拡大されているとはいえ、ウィッグだけで1キロ近くあるという大きな頭に合わせるため、ウエストを絞り、襟を高くすることでネックラインを演出するなど、緻密な工夫をしたようです。ティム・バートンと20年以上にわたって映画を製作しているコリーン・アトウッドならではの奇抜な衣装演出かもしれませんね!

『イントゥ・ザ・ウッズ』
コリーン・アトウッド
2015年第87回アカデミー賞衣装デザイン賞ノミネート
豪華スターの競演により、世界中で愛されるおとぎ話の"その後"を描く『イントゥ・ザ・ウッズ』(2014)で、コリーン・アトウッドはふたたびアカデミー賞にノミネートされました。
メリル・ストリープの空飛ぶ魔女の服、ジョニー・デップの狼スーツの裏話を通して、"俳優の動きが衣装を生かす"と語っています。
物語のカギを握る魔女の衣装は、メリル・ストリープの動きありきでデザインされたようです。宙に浮くことが多いこの魔女にとって、衣装はほどよくめくれることが重要。コリーン・アトウッドは、リハーサル中のメリル・ストリープの動きを観察し、シルクのしわ入りシフォンと、透けるほど薄いナイロンを組み合わせて、ケープを作りました。さらに、薄い革紐を生地につけ、よじれるような木のテイストをプラス。その後、変身する際には、革紐の代わりにサテンのリボンを使い、より鮮やかに、ふわりと膨らむように演出したそうです。そんなディテールとメリル・ストリープの絶妙な演技によって、CGを使わずに特殊な効果を醸し出しています。衣装と名俳優の素晴らしいコラボレーションですね。

ジョニー・デップ扮するオオカミの衣装にもご注目。襟幅が広い、膝までの長さの上着、折り返しのあるぶかぶかのズボン、つばが広い帽子というスタイルは、音楽と戯れるジョニー・デップの演技にヒントを得たものだそうです。ハンドメイドの刺繍をほどこしたジャケットを羽織り、毛皮で装飾されたフェドラ帽をかぶったジョニー・デップが動き出せば、これ以上なく魅力的なオオカミ男の完成です。
赤ずきんのドレスも、濃紺の上に透き通るブルーを重ねた二層で明るさを出しています。暗闇のなかでも希望を持ち続ける、そんな登場人物のトーンを反映する衣装は、物語の案内役ともいえそうです。

ほかの登場人物にも、薄暗い森の中で衣装が鮮やかに見えるよう、生地を重ねるテクニックを採用したそうです。ラプンツェルのドレスは、二層の薄いピンクの生地に薄い緑の生地を重ねたもので、照明によって違う輝きを見せます。
『マレフィセント』
アンナ・B・シェパード
2015年第87回アカデミー賞衣装デザイン賞ノミネート
1959年アメリカ公開のアニメーション映画『眠れる森の美女』を、悪役の視点から描いた『マレフィセント』(2014)。衣装デザインを手がけたアンナ・B・シェパードは、8週間で、妖精から中世の王、臣下たちまで、すべてのキャストの衣装を作ったことを振り返り、山ほどの苦労があったと明かしています。
目玉はもちろん、アンジェリーナ・ジョリー演じるマレフィセント。当初、1着の衣装で全編を通す予定だったものの、9回もの衣装替えをすることになり、衣装部門内に"チーム・マレフィセント"が結成されたそうです。アンナ・B・シェパード曰く、アンジェリーナ・ジョリーは、衣装の立役者だったそう。彼女が衣装をまとい、日を追うごとに深く役に入り込んでいく姿は、衣装部門のスタッフたちに刺激を与えたそうです。
若かりし頃のマレフィセントのやわらかい印象の衣装には、丈の長い、ゆったりとした部屋着を好むアンジェリーナ・ジョリーのセンスが反映させているのだとか。また、森の番人として、自然と融合する要素も大切にしたそう。濃緑に染められた重量感のあるマントは、肩のあたりは明るめですが、下に行くほど色は濃く深くなっています。それは、肩のあたりが色あせるほど太陽と空気にさらされた、というイメージなのだとか。
裏切られた後のマレフィセントは、髪を隠し、首から葉や炎のように伸びる襟が特徴。クライマックスでは、硬化した黒皮のボディスーツに身を包み、運命の闘いに身を投じます。

『マレフィセント』でのオーロラの衣装は、アニメーション映画『眠れる森の美女』でのオフショルダーのイメージとは異なり、より少女らしく、ナチュラルなデザインとなっています。

シュニール織を取り入れた、手が隠れそうなほどの長い袖で、オーロラの純粋な謙虚さを表現したそうです。ライトでゆるやかなシルエットは、真っ赤な口紅に黒皮の衣装をまとったマレフィセントとのコントラストを出すため。一方で、オーロラが最初に着ていたフード付きのコートは、マレフィセントが無垢な妖精だった頃を彷彿とさせ、2人の深いつながりを伝えているようです。

本作でのアカデミー賞の受賞はなりませんでしたが、デザイナーのアンナ・B・シェパードはそれよりうれしい体験をしたと言います。ハロウィンの夜、買い物をしていた彼女は、マレフィセントの仮装をした大勢の人に、ロサンゼルスの街で遭遇したのだそう。それは彼女にとって最高の賛辞となったようです。
『シンデレラ』
サンディ・パウエル
2016年第88回アカデミー賞衣装デザイン賞ノミネート
長年愛されてきたアニメーション作品『シンデレラ』(1950)の実写版でアカデミー賞にノミネートされたのは、衣装デザイン界の大スターであるサンディ・パウエル。同作一番の思い出として、シンデレラ役のリリー・ジェームズがドレスを初めて試着したときのエピソードをあげています。
リリー・ジェームズは、ドレスを試着したとき、目に涙を浮かべながら、"プリンセスになりたかった少女の頃に戻ったみたい"と言ったそうです。それを目の当たりにしたサンディ・パウエルは、とても感動したのだそう。そんなリリー・ジェームズと同じように、世界中の少女たちが夢に見る舞踏会の青いドレスは、20人の職人たちが550時間をかけて作り上げたそう。12層の生地を重ねてボリュームを出したボディに、1万個のスワロフスキー®のクリスタルが散りばめられています。

サンディ・パウエルのお気に入りは、ケイト・ブランシェット演じる継母のドレス。継母は、映画のなかで最も重要なキャラクターのひとり。そのドレスは、洗練されていてエレガントで、完璧であるようにデザインしたそうです。どこか恐れを抱かせるような、非の打ちどころがないドレスですよね。一方、姉たちのドレスはあえて、柄は派手でも、表面的でテイストの感じられないデザインにまとめられています。
『美女と野獣』
ジャクリーヌ・デュラン
2018年第90回アカデミー賞衣装デザイン賞ノミネート
実写版『美女と野獣』(2017)の衣装デザインでノミネートを獲得したのはジャクリーヌ・デュラン。1991年のアニメーション映画公開以来、世界中のファンの記憶に生き続ける魅惑の"黄色いドレス"に新たな命を注ぐことは、大きな挑戦だったようです。
ジャクリーヌ・デュランは、多くの人が子どもの頃から愛し続けた想い入れのあるキャラクターの衣装を作ることに、重責を感じたそうです。アニメーション内のイメージに忠実でありながらも、新たなテイストを込めるために、18世紀の歴史やファッションを参考に試行錯誤したという彼女。ペチコートを土台に、サテンオーガンジーを重ねた黄色いドレスは、清楚な美しさと波打つボリューム感で、世界中の女性たちを魅了することになりました。

前半のベルの青い衣装は、"行動力のあるヒロイン像"をテーマにデザイン。足元には走り回りやすいブーツ、スカートの下には馬に乗ったり、川を渡っても問題ない丈の長いパンツを履いています。特徴的なのはポケット。18世紀のファッションでは、ポケットが服の一部ではなく、外付けされていたということで、ベルもウエストにポケットを付け、そのなかにリンゴやパン、日用道具や本を入れています。

ベルの行動力と優しさ、賢さのすべてが詰まったポケットは、衣装がキャラクター設定に欠かせないことを教えてくれるようです。
『メリー・ポピンズ リターンズ』
サンディ・パウエル
2019年第91回アカデミー賞衣装デザイン賞ノミネート
『メリー・ポピンズ リターンズ』(2018)の衣装デザインで、アカデミー賞にノミネートされたのは、実写版『シンデレラ』(2015)でもノミネートされたサンディ・パウエル。なかでも高く評価されているのが、アニメーションと実写が融合したシーンの実験的な衣装演出です。
それは、メリー・ポピンズとジャック、子どもたちがロイヤルドルトン・ミュージックホールに行き、観客席やステージ上で楽しむ場面。サンディ・パウエルは、アニメーションと人物を融合させるために、衣装を水彩画のように平面的に見せたかったのだそう。そこで、熟練のペインターが衣装のパーツをペイントしてから縫製し、衣装が完成した後、またさらにペイントを重ねたそうです。実際にアニメーションと重ねたところを観るまでは、うまくいくかどうか未知数だったそうですが、そのチャレンジは、記憶に残る名シーンを作り出してくれました。

全編を通してカラフルな衣装が登場しますが、特に、メリー・ポピンズの衣装では、色彩とパターンが重視されています。最初に空から登場するときには、紺のストライプが入った青いコートを着ていますが、その裏地にも鮮やかなオレンジ色の水玉模様が使われるなど、ディテールも魅力。バラエティに富んだそれらの生地は、サンディ・パウエルらが世界中から調達したものだそうです。メリー・ポピンズは、1964年に公開された『メリー・ポピンズ』のときから"変わっていない"設定のため、洋服や靴、アクセサリーはすべて、前作の舞台であったエドワード朝時代のファッションを反映させているそう。彼女の身に着けている帽子や、広がりの抑えられたスカート、動きやすく立体的なブラウスは、特徴的なエドワード朝時代のファッションです。

サンディ・パウエル曰く、『メリー・ポピンズ』は4歳の頃に初めて観た思い出の映画とのこと。それだけ思い入れのある作品の続編だったこともあり、彼女は448枚もの衣装をオリジナルでデザインしたそうです。その仕事は、『メリー・ポピンズ リターンズ』の観客を魅了し、またアカデミー賞衣装デザイン賞ノミネートという栄誉をもたらしました。
デザイナーたちが魂をこめてデザインした衣装に注目しながら映画を観れば、また新たな作品の魅力を発見できそうですね。
*本記事の作品公開年はアメリカ公開の年を記載しています

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