豊かな自然に恵まれた南の楽園モトゥヌイを舞台に、盗まれた女神の<心>を取り戻し、平和をもたらすため旅に出る少女と島の人々の冒険を描いた『モアナと伝説の海』。ポリネシアの魅力が詰まった本作品から、随所に登場するモチーフ、タラおばあちゃんのエイのタトゥーに込められた意味など、印象的なポリネシアンの要素をピックアップしてみました。
モアナのネックレスのスパイラル
モアナのネックレスや舟の帆のモチーフとなっているスパイラル(うずまき)模様は、マオリ語で「コル」と呼ばれるもの。シダの新芽を指す言葉で、新しい命や門出、再生と平和、希望などを象徴するそうです。映画タイトル『モアナと伝説の海』の"ア"の部分にもあしらわれていますね。
ポリネシアに生きる海の女性
リサーチを始めた当初、この物語の主人公はマウイだったのだそう。ところが、ポリネシアの文化をリサーチする旅の過程で、ポリネシアの女性の強く美しい生き方を目の当たりにしたクレメンツが、少女を主役にすることを思いついたのだとか。思い描いたのは、典型的なプリンセスではなく、アクション・アドベンチャーのヒロインのような少女。マスカーは、「しっかり泳げて、木に登れて、岩から飛び降りることができるような強靭な身体能力、与えられた環境だけに埋もれず、自分の力で海を横断し、強風にも吹き飛ばされない強さを持ち合わせた女の子にしたかった」と語っています。
タラおばあちゃんのエイのタトゥー
モアナのよき理解者、そして、守り神ともいうべきタラおばあちゃんの背中には、エイのタトゥーが彫られています。エイは、海底の砂にじっと隠れることができるため、砂の動きで獲物を捕るサメでも、なかなか捕えられないのだとか。そのため、ポリネシアの先住民たちは、優雅な強さと賢さの象徴であるエイを、守護神と考えていたそうです。タラおばあちゃんとエイの存在は、海のなかで一緒に踊ったり、クライマックスの航海を先導したりするシーンで、モアナに大切な気づきをもたらしています。彼らがこのストーリーの道しるべであると言えるでしょう。
モアナがおでこを合わせる仕草の意味は?
クライマックスで、モアナは巨大な溶岩の魔物テ・カァにおでこをあてる仕草をします。これは、伝統的なマオリのあいさつで、相互尊重を意味するそうです。テ・カァとのおでこタッチは、自分とは違うものへの理解と愛、勇気を示す美しい仕草。自然を愛し、自然に愛されるモアナの魅力があふれ出す感動的な場面ですね。
ヘイヘイ&プアの語源
多くのキャラクター名は、太平洋諸島の言語が由来となっています。モアナはハワイ語とマオリ語で「海」。モアナの相棒のひとりであるヘイヘイは「ニワトリ」(そのままですね)。もうひとりの相棒、プアは「花」という意味もありますが、「ブタ」の省略語とも考えられるとか(こちらも、そのまま)。
モアナのおばあちゃんの名前タラは、サモア語で「物語」の意味。いろいろな話を伝え聞かせてくれるタラおばあちゃんらしいですね。そして、巨大なカニのタマトアは、マオリ語で「トロフィー」の意味だそうです。
歴史に残る「ザ・ロング・ポーズ」とは?
ポリネシアのルーツは、約3000年前にアジアからメラネシアの島々にたどり着いた海洋民族とされています。彼らは、星座や海の知識を駆使し、アウトリガー式カヌーを操りながら広大な海を渡り、小さな島々を発見するという航海の歴史を築いていきます。航海の困難さ、民族の規模の大きさ、そして長旅における忍耐力の面でも、他に例を見ない大冒険だったといえるでしょう。
ところが彼らはあるとき、なぜか航海を止めてしまいます。この「ザ・ロング・ポーズ」と呼ばれる期間を経て、再び動き出したのは約1500年前。今度は二隻のカヌーを並べた甲板に居住スペースのある双胴のカヌーに乗って、ハワイ諸島やタヒチ、ニュージーランド、イースター島などポリネシアへと渡って行ったそうです。
航海を止めた理由、そして再開した理由は、文書や証明物が見つかっていないために謎とされています。諸説あるものの、航海を止めた理由としては、エルニーニョ現象による強風や、高波による海難などが、再開した理由は、超新星などの登場により、星好きの航海者たちが移動を始めたという説や、藻類ブルーム(微小な藻類が高密度に発生する現象)により魚が減少し、食料確保のために航海に出たという説などがあげられています。航海を再開した歴史の瞬間には、モアナのような勇気ある人々の決断があったのかもしれません。想いを馳せてみたくなりますね。
人と人、人と自然とのスピリチュアルなつながりが感じられる『モアナと伝説の海』。全編に溢れるポリネシアの要素を探しながら、またモアナと一緒に航海に出てみてくださいね。