メニュー

Disney DAILY

検索
『トイ・ストーリー4』の意外な注目ポイントとは? ピクサーの小西園子さんに教わるものづくりにおいて一番大切なこと

『トイ・ストーリー4』の
意外な注目ポイントとは

ピクサーの小西園子さんに教わる
ものづくりにおいて一番大切なこと

COLUMN 2019.07.09

ピクサー・アニメーション・スタジオのテクニカル・ディレクター、小西園子さんにお話をうかがいました。小西さんは、1994年8月にピクサー・アニメーション・スタジオに入社。ジュニア・テクニカル・ディレクターとして『トイ・ストーリー』のセット・ドレッシング(セット美術)やライティング、コマーシャルを担当し、その後のほぼ全てのピクサーの長編作品に関わってこられました。7月12日公開の『トイ・ストーリー4』も担当されています。
ピクサーでのアニメーション製作については、こちらの「PIXARのひみつ展」の記事をチェック!

ピクサーに入社したきっかけは?

――小西さんがピクサーに入ろうと思ったきっかけを教えてください。

1978年、兄の影響で渋谷の映画館で観た『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』はきっかけのひとつです。兄を真似て、それらのプラモデルを組み立てて遊びながら、特殊効果を使ったハリウッド映画に夢中になっていきました。7歳の子どもの目で観たジョージ・ルーカスの映画は、まさに魔法。その頃、親にいやいや行かされていた英会話も、今となってはとても役立っており、感謝しています。

模型を使った特殊効果の仕事の存在を知り、高校1年生で日本を離れて留学し、とにかく英語に慣れようとアメリカの田舎の高校に3年間通ってから、シカゴにある4年制のスクール・オブ・アート・インスティチュート(シカゴ美術館付属美術大学)に入学しました。

大学は、一般教育からアーティスト教育まで、少人数のクラスで教えることをモットーとしていて、模型セットやビジュアルを対比させた作品制作を学んだのもこの時期です。ものすごく伝統的な美大ですが、同じシカゴのイリノイ工科大学がインダストリアル系で近かったので、アートとテクノロジーをコラボレーションする環境がありました。

カルフォルニア行きを決めたのは、1994年に、シカゴでマイナス30度の冬を経験したときです。現在のピクサーは、サンフランシスコからベイブリッジを渡った対岸にあるエメリービルという小さな町にあります。私が入社した時は、そこから少し離れたところにあった100人ほど収容できる貸しビルで、19年前に今のエメリービルの方に引っ越してきました。今の敷地にはビルが3棟あり、従業員は1,200名程います。

1994年にジュニア・テクニカル・ディレクターとしてピクサーに入社して以来、キャラクターのモデリングやリギングという、キャラクターの筋肉や関節制御を担当する部署を経験し、『モンスターズ・インク』、『ファインディング・ニモ』、『Mr.インクレディブル』、『カールじいさんの空飛ぶ家』、『トイ・ストーリー3』、『インサイド・ヘッド』、『リメンバー・ミー』など、ほとんどのピクサー作品に関わってきました。今年の夏で、入社25年目となります。

ピクサーという会社の魅力

――『トイ・ストーリー』以降、ほぼ全ての長編作品を手掛けられているんですね。

テクニカル・ディレクターとして16年くらいやってきています。メインの仕事の他に『カーズ』のピンク色の日本車の役で声優をやったり、ピクサーのショートフィルムの制作に参加したり、DVDの特典映像用の怪獣コスチュームのデザインも手掛けました。

――映画以外にもいろいろなものを作られているということですね。

はい。今は仕事が終わった後で短編映画を作るグループの活動にも注力しています。午後6時頃から夜中まで、有志が集まって作品を作るんです。これまで私が関わったのは堤大介さん、ロバート・コンドウさんの短編『ダム・キーパー』、アンドリュー・コーツさん、ルー・ハマラジさんの短編『ボロウド・タイム』。両方ともアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされました。全くのボランティアで、本業に差し支えないよう、いろいろな人が出たり入ったりして作っていきますが、どちらも小さいグループです。
仕事としての短編では、「スパーク・ショーツ(SparkShorts)」というシリーズもあります。私は長編がメインなのでまだやっていませんが、いつかは必ず制作してみたいと思っています。
小西園子さん

――小西さんのデスクはどんな感じなんですか?

私はもう入社してから長いので、個人のオフィスもいただいています。横にセラピストチェアがあるのですが、スタッフがふらりとやって来ては、そこに座って話していきます。私はスーパーバイザーじゃないので、たぶんいろいろ話しやすい安全地帯なんですね(笑)。人生相談から、技術的アドバイスまで、皆さんのお話を聞いています。

――ピクサーのアニメーション制作には、物理や数学の知識が不可欠だと感じました。小西さんは、昔から物理や数学に興味があったのでしょうか?

もともとキャラクターのリギング(モデルのバーチャルな関節と筋肉をプログラムして動きを設計する)とモデリング(コンセプトアートに基づき、キャラクターのバーチャル3Dモデルを作る)の担当だったので、表情や体の動きなど、どちらかというと解剖学のほうに興味がありました。ピクサーでは人物を描く時、服や髪を"演技の延長"として描きます。
そのうちに、私が作っているキャラクターのボディには、すべて服や髪が被さっていることに気づき、服(テーラーリング)の担当を希望しました。

『トイ・ストーリー4』の意外な見どころ!

――『トイ・ストーリー4』では、なにを担当されているんですか?

テーラーリング(洋服の材質を考え、裁断・縫製までをプログラムする)と、シミュレーション(髪や衣服が本物のように動くようプログラムする)を担当しています。テーラーリングでは、ウッディとバズの新しい持ち主ボニーと、移動遊園地の子どもたちを担当しました。

本作では、ボー・ピープがとても大切なキャラクターとして登場します。ふつうならキャラクターの服が動くスケッチのインプットは、アートデパートメント(コンセプトアートを制作する部署)やアニメーション(アニメーターがキャラクターに演技をつけ、命を吹き込む部署)から来ますが、今回は「皆の意見を聞きたい」ということで、テクニカル・ディレクターからも提案をしました。いろいろな意見を聞いた結果、アニメーターからの「ボー・ピープはおもちゃなので人間のように歩かせるとおかしいよね」という意見が採用され、少しカクカクとした動きになっています。服もおもちゃ用なので、動きも少し固め。ボー・ピープの体の動きを、服にも伝えられるようにしました。

今回、ボー・ピープは複数回のコスチュームチェンジをします。そこがすごくきれいに、楽しくできているので、ぜひ注目していただきたいです。作品中でキャラクターが、あれだけコスチュームを変えることは、あまりないと思います。

作品づくりで大切なのはコミュニケーション

――部署ごとのコミュニケーションはどのように取るのでしょう。

従来の映像製作のプロダクションのパイプラインは、流れ作業でした。しかし最近はスケジュールの圧縮もあり、各デパートメントの作業ラインも同時進行になってきてしまいました(苦笑)。お互いの作ったものを壊さないよう、邪魔しないように進めるのはすごく大変です。

パイプラインでいうと、例えばテーラーリングは、「服を一回作って投げちゃえばいいんでしょう?」と言われますが、そういうわけではなく、アートデパートメント、サーフェイス(オブジェクトの表面をプログラムで再現する)、アニメーション、シミュレーションからくる質問に答え、相互に連絡を取り合って進めます。途中経過でも、たまに服をシミュレーションしてみて、実際のフレームを作るのにどれくらい時間がかかるのを計測してみたりしますね。コミュニケーションは重要です。

――常に複雑なコミュニケーションをとっているんですね。

例えば、テクスチャーを描く人は、服が必要以上に伸び縮みしたら描くことができません。問題についてはなるべく早めに情報を共有して、動きを作り上げていきます。シミュレーションも、すべてのデパートメント(部署)が同じクオリティを維持しているか、常にチェックします。

――作業場所は、デパートメントごとに異なりますか?

そうです。オフィスの階は分かれていますが、スーパーバイザーやマネージャーを含む全員がやりとりできるコミュニケ―ションツールを使っているので、部署や管理職の壁を越えて、コミュニケーションできます。たまにプロデューサーから意見が返ってきたりします。

――コミュニケーションを取る時に大切にしているポイントは?

仕事環境はすごく守られています。仕事として様々な意見を出すわけですが、「どんな意見も根に持たない」というルールがあります。私たちは意見があるから次のビジョンが作れるので、言ってくれないと次のステップには進めません。初めは、皆シャイであまり意見を言いませんが、慣れてくるとどんどん言う(笑)。作業のハウツーを共有できると、次の制作のステップが分かるので、仕事を進めるうえで役に立ちます。

――小西さんは、ピクサーの初めての日本人社員ですが、コミュニケーション上、苦労したことはありますか?

高校も大学もアメリカの学校を出ていたので、言葉の苦労はありませんでした。でもピクサーはコンピューターのパイオニアの会社だったので、先輩たちは博士号取得者ばかり。博士号を持つ先輩たちに最初は躊躇することもありましたが、むしろそのレベルの方々だったので手厚く教えてもらえて。もともと教師だった方もいて、『トイ・ストーリー』の時は一からすべて教えてもらいました。とにかくコンピュータ・アニメーション自体が黎明期で、お互い手探りだったからかもしれませんが、誰も知らないことに対して恐ろしさを感じていませんでした。むしろ果敢に挑んでいく感じというか。今は、日本人のアニメーターが1人、テクニカル・ディレクターが2人います。

ピクサーのマインド、ピクサーの教育

――『トイ・ストーリー』は、世界初のCGアニメーション。その後も、ピクサー・スタジオは、常に新しい表現にチャレンジしてきました。ここは大変だったなという思い出があれば教えてください。

一番大変だったのは、やはり『トイ・ストーリー』です。前例がないから何を作っているのか分からない(笑)。でもスタジオのビジョンがクリアだったので、うまくいったんだと思います。
小西園子さん
――「スタジオのビジョン」はどのように共有されるのですか?

3年前、会社全員が集まって、「こういうことをやった方がいい」、「これが問題です」というトピックを出したんです。「どんな意見も大事。あなたの意見は守られている」を前提に。1,200人がそれぞれにディスカッションをして、それをデータベースに集めて、レポートを出して、どう改善していくかを話し合いました。ピクサーは20年目ですが、前代未聞のできごとでした(笑)。でもこれがきっかけで、よりオープンで、気軽に意見を出せるようになりました。

――ピクサーでは社内に向けての教育的プログラムがあるそうですね。

ピクサーは、リサーチと教育にものすごく力を入れています。「PIXARのひみつ展」も素晴らしいと思います。展示の画像のオンラインは、ぜひ体験していただきたいですね。ほかにもいろいろありますが、無料の教育機関「ピクサー・イン・ア・ボックス(PIXAR IN A BOX)」というオンラインサイトは、子どもから大人まで数学や科学を通して、映画がどのように作られているかを学ぶことができます。

またリサーチの論文や、ピクサーで使われているテクノロジーやハウツーを見ることができるサイト「ピクサー・グラフィックス・テクノロジー(Pixar Graphics Technologies)」もあります。社内向けには、マネープランニングや、リーダーシップ、ワーク・ライフ・バランスを学ぶコースもありますね。社内教育プログラムでは、「いつも、なんにでも、興味を持つ」ことを奨励しています。

私は、ピクサーの作品に長年携わってきましたが、いまだに発見があります。『スター・ウォーズ』に夢中になった7歳の自分が、心のどこかにまだいて、その好奇心がここまで導いているんだと思います。皆さんもぜひ好奇心をもって、日々を見つめてみてください。

この記事をみんなにシェアしよう!

RECOMMENDED

RANKING

ここから先は第三者が運営しているページに移動します。

コメントを受けとることが
できませんでした。
電波状況をご確認のうえ、
再度お試しください。

閉じる

投稿ありがとうございました!

投稿いただいたコメントは、審査後に公開されます。
最大24時間後の反映となります。

審査の結果、掲載されない場合もありますが、予めご承知おきください。

閉じる

ニックネームを設定いただきました方は
コメントを投稿いただくために
このページを更新してください。

更新する
 
landscape

本サービスは、スマートフォンを縦にしてお楽しみください。