98年から記録的な無期限ロングラン公演を続けている『ライオンキング』。ディズニーの名作アニメーションをもとにしたこの作品は、アフリカのサバンナを舞台に描かれる生命の営みと親子の物語。高校時代に『ライオンキング』を観たことで四季を目指し、夢を叶えたシンバ役のひとり厂原時也さんに、この独創性あふれるミュージカルの魅力についてうかがいました。
――高校の修学旅行で『ライオンキング』を観て感動したことが、四季の俳優を目指すきっかけになったそうですね。
観劇と野球観戦のコースがあって、料金が安いという理由で野球を選んでいました。でも母は「せっかくだったらミュージカルにしたら」と勧めてくれて、修学旅行に行ってから先生がチケットを交換してくれたんです。大きな劇場に足を運んだのはそれが初めてで、冒頭の「サークル・オブ・ライフ」がはじまった瞬間に引き込まれてしまいました。動物たちが本当にリアルで、サバンナに行ったような感覚になったことをよく覚えています。観劇後すぐにこの舞台に立ってみたいと思い、プログラムで俳優の方たちのプロフィールを調べたら、芸術系の学校出身者が多かったんですね。それからは自分も芸術系の学校に進学するために、奥尻島の自宅から函館までレッスンに通いながら、受験の準備をはじめました。夏休みに受講したオープンキャンパスでは「身体を柔らかくしたほうがいい」とアドバイスを受けたので、ひとりで風呂上りストレッチを2時間やったりもしましたね。テレビで放送していた劇団四季のミュージカル『人間になりたがった猫』を録画して、何度も観ていたのもその頃です。高校卒業後は大阪芸術大学に進学しました。
――劇団四季に入団して、夢だった『ライオンキング』のシンバ役のひとりに選ばれたときの心境は?
うれしいのと同時に、言葉にできないような感覚になりました。ずっとシンバ役を目指していたのですが、オーディションで身長の低さを指摘されたことなどもあり、一度あきらめたことがあったんです。でも『アラジン』のオーディションのときに海外スタッフの方が「ブロードウェイでも身長の低い俳優が演じている」と言って下さって。アラジン役を演じたあとでもう一度シンバ役のオーディションを受け、ようやく夢をかなえることができました。オーディションのときには緊張しすぎてうまく歌えなかったのですが、先輩方に背中を押してもらってチャンスをいただき、稽古を通して成長できたと思います。
撮影:山之上雅信 ©Disney
――初めてシンバとして舞台に立ったときは、プレッシャーもありましたか?
とてもプレッシャーを感じましたね。ずっと抱いてきた夢でしたし、まさか自分が『ライオンキング』の舞台にシンバとして立てるとは思っていませんでしたから。高校生の頃に感銘を受けた「サークル・オブ・ライフ」が聞こえてきた瞬間、気が引き締まりました。
――ディズニー映画『ライオンキング』はご覧になっていますか?
昔、母親の仕事の関係でビデオを手に取りやすい環境だったので、アニメーションはたくさん観ていました。なかでもやはり『アラジン』と『ライオンキング』は特に印象に残っていますね。ストーリーはすでに頭に入っていたので、はじめて『ライオンキング』の舞台を観たときには、人間の身体を目一杯使ってあの世界を表現しているんだ、という驚きが大きかったです。
――シンバを演じるうえでアニメーションを参考にしているところはありますか?
アニメーションと舞台では台詞のニュアンスが若干違うところもありますが、心情を理解するための参考にしたりしました。
――動物を演じる難しさは、どんなところに感じますか?
マスクを身につけての芝居が難しかったです。『ライオンキング』では“ダブルイベント”といって、俳優自身の表情とパペットの表情の両方を見せる手法を用いています。ただの被りものではなく、マスクに生命が宿っているように見えなければならない。首の角度ひとつ取っても大きく印象が変わって見えるので、鏡の前での練習は欠かせません。
――動物ならではのダイナミックな動きも見応えがありますよね。
(ブロードウェイのオリジナル版の演出家)ジュリー・テイモアさんがいらした際に、動きがついていないシーンでもより動物らしく見えるようなアドバイスをいただきました。あとは実際に動物園に行ったり、インターネットでライオンの動きを見たりして、自分なりに研究しています。歩き方も常にエネルギーを使うような動きにしたり、目が動いた後に首と体の動きがついていくイメージを大切にしています。
撮影:山之上雅信 ©Disney
――シンバの心の旅は普遍的な成長物語でもあり、親子の葛藤の物語でもありますよね。
シンバは大好きなお父さんが自分のせいで死んだと思い込み、故郷に帰れずひとりで旅立つというキャラクターです。そういう心の闇を抱えながら大きなナンバーも歌いますので、そこをどう表現していくかということに常にやりがいを感じますね。舞台上からは客席の反応が顕著に感じられるので、お客さまが俳優を育ててくださっていると思います。
――お気に入りのナンバーを教えて下さい。
一曲選ぶのはとても大変なのですが(笑)、幼いシンバに父であるムファサが歌う「お前のなかに生きている」は大好きなナンバーです。成長したシンバのターニングポイントになるシーンでも歌われ、舞台の上でもいつも感動してしまいます。
――観客のみなさんに、注目してほしいポイントを教えてください。
俳優の美しい動きで表現するサバンナの動植物にもぜひご注目ください。ディズニーアニメーションをご覧になった方がとても多いと思うので、舞台ならではの演出や追加されたナンバーなど、アニメーションとの違いを楽しんでいただけると思います。
撮影:上原タカシ ©Disney
――最後に、劇団四季に入りたいという方へのアドバイスもお願いします。
僕は高校生までずっとサッカー少年で、将来は漠然と調理師や保育士になりたいと思っていました。しかし、『ライオンキング』に出会ったときに「これだ!」と感じて俳優を目指しました。やりたいことにいつ出会えるのかは誰にもわかりませんが、それが見つかったとき、迷わずぜひチャレンジしてほしい。好きなことのためなら、どんなに大変なことも乗り越えられると思います。
北海道出身。2006年研究所に入所し、『ユタと不思議な仲間たち』ユタをはじめ、『ウェストサイド物語』ベイビー・ジョーン、『アラジン』タイトルロールなどを演じている。
【ストーリー】
ライオンの王、ムファサは息子のシンバに、生命は永遠に受け継がれるという自然界の理念を教える。ある日、シンバの叔父であるスカーが王位を狙い、父を殺害。自分のせいで父が死んだと思い込んだシンバは、群れを離れて旅立つ。そこで友に恵まれて成長したシンバは、幼なじみのナラと再会し、スカーと対決すべく故郷を目指すが……。
【公演情報】
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