1991年に製作された名作アニメーションを舞台化した、劇団四季ディズニーミュージカル『美女と野獣』。魔法によって野獣の姿になった王子と、お城でともに暮らすことになったベルが心を通わせていく物語は、長く世界中で愛され続けています。観客の心をとらえる歌声で愛情深く芯の強いヒロインを演じている平田愛咲さんに、アニメーションと舞台、両方の魅力について語っていただきました。
――ディズニー映画「美女と野獣」はご覧になっていますか?
幼稚園の頃に観て大好きになり、ビデオテープをずっと観ていました。母が地元、福岡で女優をやっていたので生まれたときからお芝居が身近にあったのですが、「美女と野獣」は最初に触れたミュージカルかもしれません。物語の世界に憧れている女性、ベルがお城に迷い込み“もの”に変えられてしまったキャラクターに出会うのがうらやましくて、きっとこの魔法の世界がどこかにあるに違いないと思っていました(笑)。最初にアニメーションを好きになり、小学生の頃に四季が『美女と野獣』のミュージカルを上演していると知ったんです。私よりも先に、やりたいことをやっている人たちがいるんだ! と衝撃を受けました(笑)。中学生の頃ついに福岡で観劇することができ、憧れ続けた世界が目の前に現れ本当に感動しましたね。
――子どもの頃から、ベルを演じたいと思っていたのですか?
憧れすぎて現実的な存在ではなく、演じたいとまでは思いませんでした。でも劇団四季に入団することになり、バレエや歌のレッスンをしていたときに『美女と野獣』のオーディションが行われることを知り、自分からお願いをして受けるチャンスをいただきました。ずっと家でベルの歌を歌ったりしていたので、ついに人前で歌えるんだ! という感動が大きく、まったく緊張しませんでした。それがよかったのか、ベル役として稽古に参加することが決まりました。びっくりしすぎて、涙も出ませんでした(笑)。
ⒸDisney 撮影:荒井健
――ベルを演じるうえでアニメーションを参考にしているところはありますか?
日本語吹き替え版でベル役の吹き替えをなさっている伊東恵里さんの声が大好きなので影響を受けていると思いますし、ベルの歩き方、仕草、表情まで、すべてアニメーションを参考にしています。逆に私自身アニメーションの大ファンゆえに、そのイメージを大事にしながら自分らしく役を生きるということが難しいと感じました。ミュージカルにしかないシーンもあるので、自分なりの理想のベルに近づけるよう、楽しみながら研究しています。
――ベルはかわいいだけではなく、芯の強さを持っているキャラクターですよね。
どんな困難や怖いことにも、自分の意志を持って向き合っていける人だと思います。それと同時に、とても女性的で大きな愛を持っています。ビーストに対しても最初は距離があったけれど、彼の優しさに気づいた瞬間からベル自身も変わっていける強さがありますよね。そういう柔軟性があるところも大好きです。
――父親との関係も見どころのひとつになっています。
町の人に「お父さんは変わっている」とどれだけ言われても、ベルだけは心の底から世界一の発明家だと思っているところが素敵ですよね。ベルを演じることで家族をもっと大切にしたいと思えるようになりました。恋愛だけではなく親子愛や友情などたくさんの愛が描かれている作品なので、どの年代の方でもきっと心のどこかに触れるのではないかと思います。私も観る年齢や時期などによって受ける印象が違っていて、小さい頃は夢の世界への憧れでしたが、今は真実の愛を描いた作品だと感じています。父親との愛、お城で出会った人たちとの家族のような愛、そして少しずつ変わっていく野獣との愛が最後にはどんな形になるのか、そのあたりを楽しみに観ていただけるとうれしいですね。
――お気に入りのナンバーを教えてください。
どれもお気に入りなので一曲を選ぶのは難しいのですが、「ビー アワ ゲスト(おもてなし)」は大好きなナンバーのひとつです。これまでに何度もベルを演じていますが、毎回、本当に楽しい気持ちになります。ルミエールたちがベルをおもてなしするシーンなのですが、客席のみなさんも楽しんでくださっている雰囲気が、とてもよく伝わってくるんです。お客さまもお城の一員のようになっていることが、手拍子や吐息などからダイレクトに伝わってきて、一体感があります。あとはベルとビーストがワルツを踊るシーンの「美女と野獣」。まだ自分たちでも気づいていないふたりの心情が歌われていて、愛が通い合っていく美しいシーンだと思います。子どもの頃からきれいなシーンだと思っていましたが、年齢を重ねるにつれて、より深い愛を感じるようになってきました。
ⒸDisney 撮影:荒井健
――舞台美術の豪華さも素晴らしいですね。
そうなんです。『美女と野獣』の世界に入ることができた! といつも感激しています。ベルの家にはハートがちりばめられていてパパとの愛情を感じられますし、ガストンの酒場や町も細部までよく作り込まれています。
――衣裳も豪華絢爛で、目を引くものが多いですよね。
ベルだけではなく、町の人ひとりひとり、お城の召使たちまで、すべてがとても凝(こ)っている衣裳なのです。お城の召使たちは魔法によってどんどん“もの”そのものになっていく設定なので、一幕と二幕では衣裳も髪型も少しずつ変化します。ベルの衣裳も最初は町の人たちから浮いている存在で、孤独の象徴としてブルーのドレス、ビーストへの気持ちが変化するとピンクや黄色に変わっていきます。マントの色も青から赤に変わっていくんですよ。ベルの心情を表している衣裳は、舞台美術と同様に作品の世界観を作りあげています。
――たくさんの魅力的なキャラクターが登場しますが、ベル以外のお気に入りはいますか?
みんな大好きなのですが、ドアマットが特にお気に入りです。ガストンも、ベルとしては相手をするのが大変ですが、私自身としては好きなキャラクターです(笑)。ほっとする母親のような存在になっていくポット婦人も大好きですね。舞台版にはアニメーションには出てこないキャラクターが登場しているので、そこも楽しんでいただければと思います。
――公演中に体調面などで気を付けていることはありますか?
演じているだけでカロリーを消費して痩せてしまうので、たくさん食べるようにしています。5ケ月間程舞台に立たせていただいた福岡公演ではどんどん痩せてしまったので、一日二回公演のある日にはいつもより贅沢なものを食べて乗り越えていました(笑)。太ってもいけないのですが、痩せすぎてもベルの女性的なところがなくなってしまうので気をつけています。新しくベル役として稽古に入る俳優には、「たくさん食べてね」とアドバイスをしました(笑)。ダンスや歌でインナーマッスルを使いますし、集中力が切れたりお腹が鳴ったりしても困るので、休憩中もゼリーなどを食べています。
――劇団四季ディズニーミュージカルのファンの方に、メッセージをお願いします。
画面を通して観るのも素敵ですが、舞台でしか体感できない躍動感や臨場感を、ぜひ感じていただけたらと思います。アニメーションファンの方にはおなじみのナンバーを通して世界観をより深く味わっていただけますし、舞台にしかないシーンもありますので、そこも楽しんでいただけたらうれしいです。
――最後に、劇団四季に入りたいという方へのアドバイスもお願いします。
小さい頃『ライオンキング』の子役オーディションを受けて、受からなかった経験があるんです。いつか四季の舞台に立つという夢を持ちながら、いろいろな舞台に出演させていただき、ついに願いを叶えることができました。人生、何が起こるかわからないですね。よく「努力し続けてえらいね」と言われるのですが、目標があったからこそ、楽しくやってこられた気がしています。たしかに競争率の高い世界ではありますが、もしもうまくいかなかったらどうしようというマイナスの気持ちを持たず、“好き”を原動力に明るい未来を見つめ続ければ、きっと夢は叶うと思います。