
2023年開催のスター・ウォーズ・セレブレーション・ロンドンでのマシュー・ウッド。
待望の新3部作の幕開けとなった『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』は1999年5月19日に公開された(日本公開は1999年7月10日)。StarWars.comでは25年目を迎える同作を記念して「ファントム・メナス25周年」と題し、インタビューやコラム等の特別シリーズをお届けする。
『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』の初期編集バージョンを最初に見た人物は監督のジョージ・ルーカスではなく、当時25歳だったスカイウォーカー・サウンドのマシュー・ウッドだった。彼がStarWars.comに語ってくれたところによれば、映像編集の担当はベン・バートとポール・マーティン・スミスで、彼らはスカイウォーカー・ランチでルーカスと共に数週間をかけ、『エピソード1』の最初の粗(あら)編集作業を行ったのだそうだ。その際の映画の尺はまだ数時間もの長さがあり、観客が後に目にすることになる、無駄のそぎ落とされた洗練されたバージョンからは程遠いものだった。ウッドの仕事はその粗編集版をレビューし、録音が必要な音声があればそれらについてメモをしておくことだった。
「ポールとベンは彼らがまとめたシーケンスをビデオ・テープに録画してくれたんだけど、それは何本もあった」とウッドは回想する。「私が彼らのオフィスに入ると、全部のテープがテーブルにうず高く積み上げられてた。で、ジョージ・ルーカスが『どうぞ、マット。君が映画の最初から最後までを観る最初の人間だよ』と言ったんだ。ジョージがふたつの編集室の間を行き来し、映像のすべてをチェックしていたのは確かだけど、一本の映画として通して観ていたわけではなかったんだ。このバージョンが『ファントム・メナス』として最初に出力された映像といえるもので、私はそれを手にしていたわけさ。スカイウォーカー・ランチには建物と建物の間を移動するための自転車があってね、私はすべてのテープをそのフロントのカゴに詰めて、『テック・ビルディング』まで自転車で戻った」
「そこで、セキュリティ面が心配になってパニクった。じつのところ、別に何が起こったわけでもないんだけど」とウッドは続ける。「ドアに物を置いて塞いだりね。だって1983年以来初めて新しいスター・ウォーズ映画を誰かが観るわけだからさ。母親に電話までして、自分のやっていることを伝えたよ。映像は数時間にわたっていて、仮素材もたくさん入ってた。それまでにデザインを見たり、脚本を読んだりしてたけど、実際に見るのとは大違い。この映画はすべてが新しかった。まだ足さなきゃいけないものがたくさんあった。ジョン・ウィリアムズの音楽もなかったし、ブルースクリーンだらけだったよ。この映画はサウンド等すべてにおいて新しい方法で表現したスター・ウォーズだった。このプロジェクトがいかにビッグなものかがわかった。やる気に火がついたよ」
ウッドは『ファントム・メナス』の制作に関わる以前から、すでに7年間ほどルーカスフィルムに在籍していた。最初は10代の頃で、その時は「Lucasfilm Games(ルーカスフィルム・ゲームズ)」のゲームテスターとして。そしてその後はスカイウォーカー・サウンドに所属した。コンピューター技術への関心が高かったウッドは、その後、ルーカスフィルムで開発された最初のノンリニア・デジタルサウンド編集ツールのひとつである「SoundDroid(サウンドドロイド)」の開発チームの理想的な候補者となった。SoundDroidはテレビシリーズ『インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険』(1992-1996)で多用されたが、ルーカスフィルムが手がけた映画『笑撃生放送!ラジオ殺人事件』(1994)の頃には、スカイウォーカー・サウンドはProTools(プロ・ツールス)という、今日まで業界標準となっている別のデジタル音声編集システムを使い始めていた。
ProToolsは1997年初頭にリリースされたスター・ウォーズ旧3部作「特別篇」における新作場面のサウンド編集にも使用された。ウッドがルーカスフィルムのかつてのサウンド・デザイナーであるベン・バートに新しいデジタル・ワークフローを紹介しはじめたのもこの頃のことだ。
「映画のサウンドは数十年間同じやり方で行われていたから、みんなが新しい方法に慣れるにはちょっと時間がかかった」とウッドは説明する。「私はサウンド・アーティストたちにデジタルの作業手順を教えるにあたって、人間的な要素を維持するよう努めた。彼らはその時点ではコンピューターの使い方をまったく知らなかったかもしれないわけだけど、そういう人たちに新しいツールを使ったアート制作の基本的な手順をすべて伝えたよ。私たちには古きと新しきの融合が必要だった。単に新たにコンピューターに詳しい人をたくさん連れてくればいいってもんじゃないんだ。ベンは新しいことを学ぶのにとても熱心で、だからこそ私を指導してくれたんだと思う。テクノロジーやクリエイティブなプロセス、そしてそれらの融合を共有する関係──そういった素晴らしい関係を私たちは築いてきたんだ」
バートがウッドに任せた初期の仕事に、自身が作り上げたオリジナルのスター・ウォーズ用サウンド・ライブラリをデジタル化するというものがあった。当時よく使われていたデジタル・シンセサイザー「シンクラヴィア」でそれらの音を利用できるようにするためである。バートは『ファントム・メナス』ではサウンド・デザイナーを務めるだけでなく、映像編集者でもあり、制作初期には、ポッドレース・シーン等、ラフ・アニマティクス(ビデオ絵コンテ)作成用素材の撮影や編集の仕事で多忙を極めていた。ウッドはすぐに──そして完全に──スター・ウォーズ制作に巻き込まれることになった。
「私は単にプロジェクトに引き込まれたってだけ。正式なプロセスは踏んでない。ジョージと一緒に仕事をすることができて、チームの一員になれたのなら、もうそれだけでバッチリってことさ」
スカイウォーカー・サウンドの本拠地となるスカイウォーカー ランチの「テクニカル・ビルディング」
「スカイウォーカー・サウンドで素晴らしいことのひとつは単一の仕事に縛られないこと」だとウッドは続ける。「エンジニアリング、タイムコードやビデオとの同期、コンピューター・プログラミング、マイク技術等、多種多様なことを知る必要があった。多くを現場で学んだよ。そこではみんなが情報を共有しあってるんだ。ベンはじつにいろんな役割を担っていて、私もそれに倣った。新しいことに挑んではいけないなんて一度も言われなかったね」
「まさに夢のようだった。ああいった一連のプロセスに身を置けたのは信じられないくらい素晴らしいことだったよ。『自分は場違いなんじゃないか』みたいな萎縮感はまったくなかった。じつに心地いい環境だったよ。ジョージはその雰囲気作りに大きな役割を果たしてた。彼はみんなを信頼してたし、自分ができる限りのサポートをしようとしてくれてた。それはチーム作りにも反映されてたね。その心意気は『自分たちが作ろうとしているのはインディーズ・ムービーなんだ』というものだった」
ウッドが言うように、ピザハットやタコベルなどから関連商品が届いたときに初めて、彼らは自分たちの取り組んでいる映画が世界規模のものだということを思い出すことになった。
「基本的には友人たちとインディーズ映画に取り組んでいるわけさ。だから、これが世界的にどれほど大きな作品であるかを失念してしまうんだ。スカイウォーカー・ランチはそんなインディーズ感満載のところだった。大作映画だって思い起こさせてくれたのがタイアップ商品だったというのは面白いよね」
ウッドはバートの膨大なオリジナル・サウンド・レコーディング・コレクションのデジタル・データベース化に取り組んだ。これはマウス・クリックひとつで任意のサウンドにアクセスできるもので、当時としては──まったく前例がないというほどではないが──劇的な高速アクセス性能を誇った。彼はまた、そのデータベース構築のため、新たなサウンド収集にも熱心に取り組んだ。バートが昔やっていたように、ウッドもマイクをフィールドに持ち出し、車、ボート、飛行機、動物等のサウンドを収集した。
「北カリフォルニアにあるレーシング・トラックに行ったんだ」とウッド。「そこでは契約書にサインすれば、どんな車かは関係なくレースに出られるんだ。私はそこに自由にアクセスできる許可をもらってね、たくさんの素晴らしい車の音を手に入れた。それらはアナキンやセブルバのポッドなどのサウンドの一部に使われてる。マフラーやエンジンの種類も本当にたくさんあった」
ウッドその録音素材をスカイウォーカー・ランチへと持ち帰ると、バートのためにカタログ化を行った──バートは熟練の腕でそれらの素材を個性的なサウンドに仕立て上げるのだ。
「いや、何に驚いたかって、私が自分ではうまく録れなかったと思っていた音を使ってバートが何かを創造してしまうその能力さ」とウッドは回想する。「彼は、そのほんのちょっとした音からじつにクールなものを作り出すんだ。私は彼が音をデザインし、レイヤーを重ねていく様子を座って見てた。彼はいつも、オリジナルのサウンドを使うことで古いスター・ウォーズの風格を味付けしていた。スター・ウォーズにおいては、サウンドはじつに潜在意識の接着剤として機能するのだと学んだよ。まったく新しい時代のもののように見えても、レーザーや宇宙船、ライトセーバーの音があなたの覚えているスター・ウォーズを呼び起こしてくれるんだ」
「レースのシーンの音について、ベンは素晴らしい指針を示してくれた。こういう場面は非常に短いカットつなぎになるから、ある状態から別の状態への変化を表すポイントを設定するのに使えるのは『音』だけになる、と」とウッド。「走路でレーサーが減速後に再び加速するときなんかはギア・シフトが必要だけど、そういった地点を見つけたらどうかとアドバイスをもらったよ。そんな場所だと何種類もの音が採取できるんだ。そういうサウンドが視聴者の印象に残ることになる。ポッドレースの場面を見てもらえるとわかるけど、たくさん聞こえてくるのはギア・チェンジするときの音だよ。非常な短時間内におけるエネルギーの高まりを表すサウンド。一定で変化しないサウンドでは視聴者に印象付かないんだ──ただし、セブルバがアナキンのすぐ後ろに迫って来ているときのような威圧感を表現するシーンでは別だけど」
(Part 2に続きます)
Starwars.com 2024/9/4 の記事
筆者略歴
ルーカス ・O・シーストロムは、ライターでありルーカスフィルムのヒストリアン(歴史家)。カリフォルニア州セントラル・バレーの農場で育った彼は、生涯にわたるスター・ウォーズおよびインディアナ・ジョーンズのファンである。