大きく、悪く、骨っぽくて、くちばしがある、マーク・スペクター/スティーヴン・グラントにしか見えない、みんなが大好きなエジプト神コンス!
マーベル・スタジオの『ムーンナイト』では序盤に月と復讐の神が登場し、視聴者は(スティーヴン・グラントとともに)、マーク・スペクターがコンスのアバターであることを知ります。それはどういうことなのか、そしてなぜコンスはマーク(とスティーヴン)に対し、邪魔者を全員殺すよう求め続けるのでしょうか?コンスの目的の目的を知ることは簡単ではないでしょう。さらに彼は思い通りにならなければ、駄々をこねることでも知られています。
アカデミー賞受賞俳優のF・マーリー・エイブラハムが声を担当するこのキャラクターは、常に少しばかり嫌な奴として書かれていたと、ヘッドライター兼制作総指揮のジェレミー・スレイターは語っています。
「コンスは、最初の原稿のときから、気難しいけど憎めない男として描かれていました。彼は態度が悪く、ちょっと見栄っ張りで鼻につく。常に正しく、間違いを許さない神よりも、自分自身の道徳的な欠点や弱点があるようなコンスの方が、私にとっては面白く感じられたのです。最初から、スティーヴン・グラントと組ませるのに最も楽しいコンスは、スティーヴン・グラントの根性が心底嫌いなやつだと考えていました。」
エイブラハムは制作の終盤に番組に参加したため、スレイターは最初の予告編を見るまで、彼がコンスの声を担当していることを知らなかったと言います。
「彼のような役者が自分の言葉を語ってくれるのは、まさに作家の夢です」とスレイターは続けます。
「彼はこの業界で最高の声を持っています。脚本家が缶詰状態で書いたセリフに、俳優が命を吹き込み、自分なりのアレンジを加えるのを聞くのです。F・マーリー・エイブラハムのコンスは、この2年間、頭の中で聞いていた声とまったく同じに感じられて、頭の中からそのまま抜き出したようでした。」
さて、エイブラハムがこのキャラクターに命を吹き込むことについてこの時間を費やしてもいいですが、どうせなら彼自身から直接話を聞きましょう。エイブラハムは現在別のプロジェクトで制作中のシチリア島から(いくつかの機械トラブルを乗り越え)対談に参加し、コンスのこと、マーベル・スタジオの『ムーンナイト』、そして気難しい老いた鳥を演じることの楽しさについて話してくれました。
こんにちは、機械トラブルの件、申し訳ございませんでした。
私が今どこにいるかご存じですか?
イタリアにいるのでは?
シチリア島の随分豪勢なイオニアの港が見渡せるホテルスイートにいます。今日みたいな日は天気も良くて人生の素晴らしさを感じられますね。見せられたら良かったのですが。とにかくようやくお話できて嬉しいです
こちらこそ。私はあなたの大ファンで、なにより声が大好きです。頭の中でずっとあなたの声がして、コンスについて話せることにワクワクしています。
私もです。素晴らしいです。彼らはあれだけのものを作り上げました。オスカー(・アイザック)とは古くからの友人で、過去にシェイクスピアで共演したこともあります。なによりこの作品を見れて嬉しいですね。大成功だと思います。何から話せば良いでしょうか?何が聞きたいですか?
マーベル・スタジオにまず参加したところからお聞きしたいです。どのような経緯で今作に参加することになったのですか?オーディションを受けたのですか、それとも誰かからのオファーがあったのでしょうか?
向こうからアプローチしてきました。どうやって私を選んだのか分かりませんが、とても楽しそうだったので喜んで受けました。
一方で、何もかもが予想外で、驚きの連続でした。神話のキャラクターが次々と出てくるのに信憑性があるところが、この作品の素晴らしさの一つの要因ではないでしょうか。どれもがほのかにありえそうに見えるのです。エジプトに行き、ピラミッドや遺跡に入っていくことにリアリティを感じます。どう思います?
(笑いながら)そうですね、すべてありえると思います。もしかしたらコンスがどこかで私のことを待っているのかもしれません。
シリーズに参加した時、コンスについてどれだけのことを聞かされましたか?コンスは大きくて気難しい鳥の怪人で、1人の男をひたすら虐めるキャラクターだと伝えられましたか?
そうではなく、すでに出来上がったものを見せてもらって、このキャラクターの声を作ってみる気はないかと聞かれたんです。もちろん、引き受けましたよ。私の知る限り、とんでもないキャラクターです。俳優のエゴなので言いたくないのですが、彼は作品全体の中で最も愛すべきキャラクターの1人だと思います。(笑いながら)彼はとんでもないです。彼は何でもできて、その力を魅力的に使いこなすことができるんです。そんなところが大好きです。
コンスのマークとスティーヴンへの悪口をまとめた動画をたくさん見ます。これらのセリフを収録するときや、思いついたりするとき、どれくらいの遊びがあったのでしょうか?
今回の収録がとても楽しかった理由として、スタッフが私に自由にやらせてくれたこと、そして意見を求め続けてくれたことです。何度も録音し直しました。みんなが満足するようなものにするために、何度も何度も足を運んで、いろいろなことをやりました。録音して、自分のセリフを聞き直し、1週間後にしばらく置いてからまた戻ってくると、どこかが改善されているのがわかるというのは、とても素晴らしいことでした。一度に全部やろうとするのではなく、何回かに分けて収録するのは、とても賢明なことだと思います。それをしばらくの間続けました。
アニメの収録のように、すでに出来上がっていて、後からセリフを加えるという感じだと思うのですが、収録はどのように行われたのでしょうか?
このような手法をとったのは主に私が舞台役者だったからです。何度も現場を訪れるのが好きなんです。
アニメーションの収録と違い、舞台を終えた後、翌日もまた同じ舞台に戻ってこられます。例えば、私は週に8回ショーを行っています。週が終わるころには、何度もやっているので、改善や変更、調整について考えることができるようになるんです。今回それを、彼らはやってくれたんです。彼らは収録したセリフを聞き続け、何度も私に違うアイデアはないかと尋ねてきました。おかげで、自分も制作プロセスの一部であるかのように感じました。正直に言うと、なかなかそう感じられる機会はないんです。
監督や出演者とも話したのですが、誰もが、この作品はずっと共同作業で、誰もが意見を出し合い、ひたすらやり取りをしていたと聞いています。
それってよくあることなのですか?おそらく違いますよね。参加できて良かったですし、うまくいったように思います。
その通りだと思います。収録をつづけていくうちにコンスの声がどう進化していったのか教えてくれますか?
あれは面白かったですね。最初のレコーディングに入る前に、いくつかのパターンを考えていました。それを全部、それぞれ持ち込んだのです、どれが合うのか分からなかったので。他の人たちがどんな声を出しているのか知らなかったし、キャラクターのビジュアルもわからなかったしね。
とにかく、何パターンかを聴かせた上で、今聴いていただいているような声に落ち着いたとき、彼らはとても協力的で、喜んでくれました。私も嬉しかったです。私が一番気に入っていたものでしたし、彼らも好きになってくれたら、と思っていましたから。最も相応しいものだと思っていましたし、実際その通りでした。あのおかしくて、奇妙なキャラクターにぴったりなのです。
もう彼からあの声以外が聞こえてくる想像ができません。
そう言ってくれて嬉しいです。ありがとうございます。
気に入っているセリフなどはありますか?わたしは第2話の「殺せ ノドを突け」が好きです。
今の言い方はとても良かったですね。ゾクゾクしました。今の即興の言い方、私が覚えているよりも上手でしたよ。それはさておき、それを選んだのは面白いですね。私が好きなセリフは(コンスになりきって)「バカが制御権を握りおった」です。あれが大好きなんだ。
この『ムーンナイト』の物語において、とても面白くて予測できないキャラクターですよね。
なたもそうだと思いますが、自分が演じたキャラクターなのに、私はいまだに彼のその場しのぎの暴力に驚かされます。彼にとっては、とても簡単なことなんです。しかし同時に、彼の思いやりのあるところから来るものだから、どうやってそのバランスを取っているのかわかりません。
彼はとてもチャーミングなんだと思います。
第6話のコンスとアメミット戦闘シーンについてお聞きしたいことがあります。あれほど激しいシーンを、録音室の中だけで収録することについてお話いただけますか?
声優業についてお詳しいのですね。
わたしは舞台裏の情報が大好きで、映画を専攻していましたので、こういう知識に関してはありすぎるかもしれません。
おっしゃる通りです。私にとってこのような収録はいつも、最も困難なことのひとつになるんですよ。とにかくリアルで説得力のあるように聞こえなくてはいけません。非常にわざとらしい音声を聞いたこともあります。人々がうなり声をあげ、緊張しているような、そんな音声です。簡単なことではないのです。
今おっしゃったような収録は、私が最も疲弊するセッションです。エネルギーと自分自身をそこに注ぎ込まなければならないので。時には、何度も何度もやらなければならない。長いセッションですからね。とても疲れます。
ところで、あなたが映画を専攻していたとは興味深いですね。私も経験しましたが、決して簡単じゃなかった。
ディズニープラスで公開するためにはそれほどまでの労力が必要なのですね。
そういう風に考える人がいることがとても面白いです。こういうことをするのにどれだけの力が必要かを理解している人がそんなにいないんです。制作する人々がヒーローだとは言いませんが、皆が思っている以上に大変なことなのです。
しかし、あまりにも自然だったので、実際に戦闘を撮影したわけではないことに気付かないほどでした。映画のマジックのようですね。
そうなんです。まさにそこが問題なんです。レコーディングをする俳優の映像があればいいのですが、何しろかなり過酷な現場ですから。ものすごく腹立たしくなってしまう時もあります。と言うのも、私は本当に前のめりになって、身を乗り出して、マイクに何度もぶつかって、録音を台無しにしてしまうんです。何度もやり直さなければならない。
でも私はそこまでしないといけないんです。ただ棒立ちで戦ってるふりなんてできません。ちゃんとやり切らないといけない。
コンスはマークとスティーヴンと一触即発の関係性ですよね。次のアバターにするのではないかと思われていたので、レイラとも同じような関係でした。俳優たちとは必ずしも考え方が違うわけではないと思いますが、どのようにしてこういった関係性を築いたのですか?
私とオスカーは一緒にシェイクスピアで共演したこともあるし、映画でも共演しました。お互いにとても仲が良いのです。家族ぐるみの仲なんです。
つまり今回とは違うつながりがすでに彼との間にあったんです。だから、映像を見て、声をレコーディングするときにも、そこには古くからのつながりがありました。そのおかげで、実際に彼と話しているような気分になれたんです。
最近オスカーとは話されましたか?彼の反応をお聞きしましたか?
まあ、これは話してもいいだろうし、あなたが確認をとってくれても良いのですが、実は彼は、私がオファーを受けたことを知ると、すぐに連絡をくれて、喜んでいるとか、そういうことを言ってくれました。いい人なんですよ。
それからいくつかレコーディングに関しての案をくれました。どれもよくて実際に採用しました。なので私の演技に関しては彼のインプットがいくつかあります。私たちの友情を信じているからこそ、いくつかアドバイスを言ってくれたのでしょう。
彼がくれた提案を覚えていますか?
一つは「良い演技しろ」でした。ふるくさい言い方でしたが、応援してくれました。自分ができるだけ威厳のある感じで、大げさにやった方がいいと。ずいぶん大雑把なアドバイスでしたが、キャラクターがかなり大雑把なので、とても良かったです。
実際にスクリーンに現れていたと思います。何度も言いますがコンスはファンの間では一番のお気に入りで、とても愛されています。
本当ですか?それは知りませんでした。私もこのキャラクターが好きなので嬉しいです。さっきも言いましたが、私は今シチリアで別のプロジェクトに参加していて、それに手一杯でした。私を含め、皆がコンスを好きでいてくれて本当に良かったです。
それではコンスが関わっていたあのラストについて話していきましょう。ラストシーンでついにコンスとも関わりのある3番目の人格の存在が明かされました。コンスがマークに嘘をつき続けていたことを知り、ムーンナイトの物語が今後どうなっていくと思いますか?
それこそが次のミステリーであり、楽しみにすべきポイントではないでしょうか。私からは何も言いません。(コンスになりきり)バカな女め。
今後どのようにコンスを演じていきたいですか?たとえば『ムーンナイト』が10シーズンくらいあるとしましょう。初日から参加しますか?
コンスは最高です。彼を演じるのはとても楽しい。私たちの仕事は、どれだけ大変か、何を達成しなければならないか、ということがよく話題になりますが、同時に楽しいことでもあるのです。それを忘れる人が多いです。
それがコンスのもうひとつの魅力で、彼は本当に楽しいキャラクターなんです。彼は危険ですが、同時に自分を犠牲にすることを厭わない感動的な面もあります。これはあなたと私が話さなかったことですが、実際、彼はとても利他的で心配性なんです。
それが彼のパワーの源だと思います。彼は、他人と同じくらい自分自身にも厳しくします。それが犠牲心です。そんな彼が大好きです。立派なことです。
それ以上のことは言いたくないけど、彼への思い入れはとても大きいです。私はこのキャラクターがとても好きになってしまったようです。
あなたがコンスの一番のファンかもしれませんね。
そうかもしれません。
それでは最後の質問です。『ムーンナイト』を最後まで見終わった人にどういったことを感じてほしいですか?
明るい気持ちになってくれることです。この古びた世界にも本物のスーパーヒーローはいるのだと。月並みなことを言いますが、スーパーヒーローたちは世の中を良いものにするためできる限りのことをしています。それがどれほど大切なことか言い表せませんが、すこしだけ希望をくれるんです。特に近頃は希望が必要だと思いませんか?