子どものころから昆虫が大好きで、今もなお調査・研究のため、世界各国に渡航し続ける昆虫学者の丸山宗利さん。実家の近くに東京ディズニーランド®があったこともあり、子どものころからディズニー作品には親しまれてきたのだとか。その中でも大好きな作品としてセレクトされたのが『ラテン・アメリカの旅』(1943)。フィールド調査で南米にも訪れた丸山さんに、再発見された本作の魅力をお話いただきます。
実写とアニメーションを融合し南米を紹介
DAILY編集部:
『ラテン・アメリカの旅』は1942年に南米で先行公開。アメリカでは1943年、日本では1957年に公開された古い作品ですが、この作品の魅力は何だと思われますか?
丸山さん:
ラテン音楽好きというところから、まず興味を持ったんです。ウォルト・ディズニーと、ディズニーのスタッフがラテン・アメリカ各地を旅しながら、実写とアニメーションを融合させて現地の民俗や風景を紹介する本作は、非常に斬新(ざんしん)だと思いました。ずいぶん前に作られた映画なのに、全く色あせないのも凄い。発表された当時は太平洋戦争のまっただなか。そんななか、こんなに素晴らしい作品を作っていたなんて、単純に驚きを隠せません。
資料映像としても貴重な記録
DAILY編集部:
『ラテン・アメリカの旅』は、ボリビアとペルーにまたがる、標高3キロのチチカカ湖を舞台にした「ドナルドのアンデス旅行」、アンデス山脈を越えチリへと飛んだアニメーターのスケッチから生まれた「小さな郵便飛行機ペドロ」、アルゼンチンのガウチョとアメリカのカウボーイの生活を比較した「グーフィーのガウチョ」、ホセ・キャリオカがドナルドダックをサンバの国に誘う「ブラジルの水彩画」の、4つの話で構成されています。
丸山さん:
実はこの作品を見た後、ペルーに2回ほど行きました。ペルーでは、昆虫を探してあちこちのジャングルを訪れたんですが、どこに行くにも必ず首都のリマからアンデス山脈を越えなくてはならないんですね。切り立った岩山が続くアンデス山脈の風景は、声を失うほどの絶景で、第2章の「小さな郵便飛行機ペドロ」の冒険を思い出しました。また、ところどころに見られたラマと放牧する人たちの風景は、最初の章「ドナルドのアンデス旅行」のシーンとも重なりました。
DAILY編集部:
映画をご覧になったあとに、ペルーに行かれたので気づかれた面白さですね。
丸山さん:
そうですね。ドナルドダックがラマの背中に乗って旅するアニメーションも、とても楽しかったです。実写パートでラマはペルーの人の生活に重要な動物として紹介されますが、アニメーションパートではラマの傲慢な性質を誇張して面白おかしく描いている。うまいなあと思いました。
DAILY編集部:
飼い主がフルートでラマを操っているのを見たドナルドダックが、同じようにフルートを吹いてみるシーンですね。特徴的なラマの波打つような歩き方も、アニメーションでは揺れるつり橋を上手に渡るシーンとして描かれています。
丸山さん:
あと、新鮮だったのは現地の人たちの様子。今は、多かれ少なかれ現代化していますが、80年も前になると、葦(よし)の船に乗って漁業をしたり、市場で物々交換をしたり、世間話をするために遠くから集まってきたりと、本当に昔のままの生活をしていたのだなと感心しました。本作は記録映像資料としても貴重だと思います。
生き物の多様性が地域を魅力的に
DAILY編集部:
映画の面白さに加え、南米ブラジルの密林に生息する植物、鳥、虫などが登場。その生き生きとした動きが印象に残ります。
丸山さん:
私は昆虫の多様性について研究をしています。"多様性"というのは難しい言葉ですが、いろいろな環境に、いろいろな生き物が住んでいる様子をイメージしてもらうと分かりやすいかと思います。
"いろいろな生き物"には、動物だけでなく、植物や昆虫やミミズや菌類なども含まれます。この作品にはさまざまな景観が登場しますが、それは生き物の多様性によって作られたもの。「ブラジルの水彩画」には、いろいろな植物や鳥が描かれていますが、その生物の多様性が文化と密着し、その地域の魅力を作り上げていることが分かります。改めて生き物の多様性の大切さを感じました。
DAILY編集部:
どんなシーンか、もう少しうかがってもよろしいですか?
丸山さん:
さまざまな植物が繁茂するジャングルに水が流れ、蘭(らん)の花が咲き、フラミンゴが描かれます。さらに別の蘭やオオハシやオウムも登場する。いずれもブラジルに生息している動植物ばかりです。このシーンは、自然の美しさと音楽が融合して実にうまく描かれている。ここも、前提に"生物の多様性"があるからこそ、生まれた名シーンと言えるでしょう。
DAILY編集部:
スケッチから誕生したホセ・キャリオカが、森を飛び出し、ドナルドダックに"これがサンバだ"とリズムとダンスを教えます。
丸山さん:
あらゆる文化は、その土地に生息する動植物に影響を受けていて、音楽であるサンバもその延長線上にあると言って間違いないでしょう。実際に聞いてみると、サンバはブラジルの気候や風土にマッチした音楽のように思います。
* *
『ラテン・アメリカの旅』は、本の執筆や講演、展示などで生き物の多様性の素晴らしさを熱心に伝える丸山さんならではのセレクトですね。フィールド調査を行う丸山さん同様、現地に足を運び、人々の暮らしや文化、景観などをスケッチしてアニメーションにしたスタッフの心意気が詰まった本作を、ぜひ楽しみながらご覧ください。
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丸山宗利(まるやま むねとし)
昆虫学者/1974年生まれ、東京都出身。国立科学博物館、シカゴのフィールド自然史博物館研究員を経て、2008年より九州大学総合研究博物館助教に着任、2018年に准教授に就任。昆虫の中でも甲虫とアリを専門に研究、アジア・アフリカ・南米・ヨーロッパなど20カ国以上でフィールド調査を行い、150種以上の新種を発見している。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」に出演。著書にベストセラーとなった『昆虫はすごい』をはじめ、『ツノゼミ ありえない虫』、『アリの巣をめぐる冒険』、『アリの巣の生きもの図鑑』など多数。
公式HPはこちら
*本記事の作品公開年はアメリカ公開の年を記載しています
『ラテン・アメリカの旅』の次によく視聴されている作品
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