1992年製作の『アラジン』は、「アラビアンナイト」の名でも知られる「千一夜物語」のなかの一篇「アラジンと魔法のランプ」を基に制作された、ディズニーのアニメーション映画です。
「千一夜物語」は、ペルシャ、アラビア、エジプトなどのイスラム圏で古くから伝えられている民話を集めたもの。原作はインドに起源を持ち、ペルシャ語からアラビア語に訳され、現在伝えられる形に整ったのは16世紀初頭といわれています。「千一夜物語」にはいくつもの版が存在しますが、なかでも"ひらけ、ゴマ!"の呪文でおなじみの「アリババと40人の盗賊」や「船乗りシンドバードの物語」、そして「アラジンと魔法のランプ」が最もよく知られています。
基になったちょっと怖い「千一夜物語」
「千一夜物語」のはじまりは、ちょっと恐ろしいお話。ペルシャ王シャハリヤールは、妃が奴隷の男と浮気しているのを目撃して激怒、ふたりを処刑してしまいます。以来、王は女性不信に陥り、毎晩新たな妻を迎えては翌朝首をはねるという蛮行を繰り返していました。美しく賢い娘シャヘラザードは、そんな王のもとに自ら赴いて妻となり、夜、王に奇想天外な物語を話して聞かせます。その物語があまりに面白かったため、王は続きが知りたいあまり処刑を先延ばしにし、次の日も、また次の日も彼女の物語を聞くようになります。こうしてシャヘラザードは、千一夜にわたり、命がけでさまざまな物語を語るのです。
ペルシャ王シャハリヤールに語って聞かせるシャヘラザード ©Culture Club / Getty Images
数ある物語の舞台の多くは中東の国々ですが、東は中国からインド、西はギリシャ、モロッコ、スペイン、さらには架空の国まで広大な範囲に及んでいます。実は「アラジンと魔法のランプ」の物語も舞台は中国と言われています。中国と中東は、当時、陸と海のシルクロードによって結ばれていたこともあり、舞台となった場所の国境も現在とは異なっていたのかもしれません。
架空の町アグラバーで出会ったアラジンと王女ジャスミンが魔法のじゅうたんに乗って大空を飛びまわる「ア・ホール・ニュー・ワールド」のシーンで、ふたりがエジプトのピラミッドやスフィンクス、ギリシャの神殿、中国・北京の紫禁城まで旅するのは、「千一夜物語」へのオマージュなのかもしれません。
魔神ジーニーとランプ
表面をこすると魔神ジーニーが現れる魔法のランプ。これ、ランプと言っていますが、形は急須かカレーのルーを入れる器のよう。本当にランプなの?と思った方もいるでしょう。はい、これはれっきとした照明器具なんです。なかに油を入れ、注ぎ口のように見えるところから灯心を出して火をつける仕組みの伝統的なオイルランプ。こんな小さなランプの中に、ジーニーは1万年ものあいだ閉じ込められていたんですね。
「ジーニー」または「ジン」は、アラビア語で「妖精」や「魔神」を意味する言葉だそう。それがそのまま名前になっているんですね。ランプから飛び出したジーニーが最初に披露するのは、次々と姿を変えたり物まねをしたりしながら自分の能力をアラジンに歌い聞かせる「フレンド・ライク・ミー」。楽しいこのナンバーの出だしは、アリババは40人の盗賊シャヘラザードは千の物語(を持っていた)という、「千一夜物語」の一部をフィーチャーした歌詞になっています。
ご主人様の願いを何でもかなえてくれるジーニーですが、それにもルールがあります。まず、願いごとは3つまで。さらにその内容も「殺人はだめ」「愛情関係もだめ。人の心は変えられない」「死人は生き返らせない」。しかし、これらの決まりは原作にはなく、映画のオリジナル。この決まりがあるからこそアラジンは願いごとを大切に使い、またアラジンとジーニーの友情という原作にはない感動的な場面が生まれたのです。
アラジンが用意した贈り物の数々
お城を抜け出したジャスミンとのひと時を過ごしたアラジンは、彼女のことが忘れられなくなります。でも相手は王女様、貧しいアラジンにとって、彼女に求婚するなんて夢のまた夢。そこで、ジーニーに頼んだひとつ目の願いごとは、王子にしてもらうこと。まず服は王子らしく白の上下にマント、青い羽根と宝石つきのターバン。アブーが変身した象に乗って、山のような宝物と家来を従えて颯爽とお城まで行進します。
イスラム教徒の男性は、結婚する際に"マフル"と呼ばれる結納金や貴金属などの贈り物を相手の女性に用意するしきたりがあるんだとか。ジーニーが歌う「アリ王子のお通り」によれば、アリ王子の持参品は、金のラクダが75頭、紫クジャクが53羽、遠い国の珍しい動物たち、ペルシャの白いサル95匹、その他に象、熊、ライオン、楽団さらには僧にコックに無数の鳥、と、いずれも高価なもの、珍しいものばかりです。そのなかでもクジャクは、中東では"百の眼を持つ動物"とも呼ばれ、永遠の至福や魂に映した神の姿、またイスラムではコスモス(宇宙)のシンボルとされている大変に縁起のいいものなんだそうです。
王女ジャスミンのドレスにも、クジャクの柄が施されています。
クジャク©kojoty / Depositphotos.com
また、実写版『アラジン』では、宮殿に入ったアラジンがさらに、スパイス、金のラクダ、スプーン、ジャム、宝石の贈り物を用意した、と宣言します。そしてジャムについて、イチジク、ヤムイモ、ナツメヤシなど、どちらかと言えば私たちには馴染みの薄い食材の名を挙げていました。これらはみな、乾燥に強く砂漠の多い中東地域では盛んに栽培されているものなのです。特にナツメヤシ(デーツとも呼ばれます)は、栄養価が高く、乾燥させれば保存もきくので、紀元前何千年という昔から、この地域における重要な食料のひとつでした。
ナツメヤシ
ハムラビ法典や聖書、クアルーン(コーラン)にも登場し、また預言者ムハンマドの好物だったとされています。ゴージャスで楽しいシーンには、中東文化のエッセンスがあちこちにちりばめられているんですね。
魔法のじゅうたん
アラジンは相棒の猿、アブーとともにランプを探しに入った洞窟で、空飛ぶ魔法のじゅうたんと出会います。じゅうたんという織物は、もともと中央アジアの遊牧民が移動生活のなかで使っていたもの。やがてペルシャじゅうたんに代表される美術工芸品ともなり、豪華な細工を施した超高級品は王家に献上されていました。金貨や宝石であふれ返る洞窟にあった(いた?)魔法のじゅうたんも、宝物のひとつなのです。
「アラジンと魔法のランプ」には魔法のじゅうたんは登場しませんが、「千一夜物語」の別のお話「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」には、姫を射止めるために3人の王子たちが用意した宝物のひとつとして登場します。とはいえ、ここでのじゅうたんは単に不思議な珍しい乗り物として描かれているのみ。一方『アラジン』のじゅうたんは、ジーニーほどの派手な活躍はしないけれど、常にそばにいてアラジンを助け、ついでにキューピッドの役割も果たしてしまう、お茶目で愛らしいキャラクターに描かれています。
いかがでしたか。
この映画をきっかけに、「千一夜物語」に触れてみるもよし、映画を観ながらナツメヤシを味わってみるのもいいですね。きらびやかで魅惑的な中東文化に、ぜひ思いを馳せてみてください。

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