映画を作る時は、そのテーマや舞台に対して、制作チームは徹底的なリサーチを行います。飛行機の世界をテーマとした『プレーンズ』シリーズにおいても、実在のパイロットや航空専門家、空中消火隊との綿密なやりとりと現場視察が行われたようです。リアルさとファンタジーが同居する『プレーンズ』の世界に込められたこだわりを、スタッフの証言や実在の飛行機との比較などから、辿ってみましょう。
スタッフ約500人、スケッチ約5万枚のこだわり
『プレーンズ』(2013)の冒頭で、飛行機が上空を飛び回るシーンは、一瞬、実写映像を見ているような錯覚に陥るほどリアル。思わず、自分も空を飛んでいるような気分になりますね。冒頭のリアルさゆえ、チャーミングな農薬散布機"ダスティ"がクローズアップされると、違和感なく飛行機たちが活躍する物語の世界に入り込むことができます。
アニメーションとして可愛らしく描かれている飛行機が、玩具のように見えてしまっては物語が描けません。玩具の物語ではなく、飛行機たちのドラマとして空上でのリアルさを追求すべく、本作を制作する際は、実在のパイロットと専門家がとことん監修したのだそう。制作に関わったスタッフは約500人、スケッチ数はなんと、約4~5万枚にものぼったそうです。
物理的法則に沿ったサイズ&スピード&ターン
空上のリアルな描写を実現するためには、物理的法則を無視することはできません。同作に関わった航空専門家によれば、飛行機も周辺設備も実際のサイズ感であること、飛ぶスピードも実際に飛べるスピードであることが重要なのだそうです。
例えば、ダスティの翼面荷重はP-51マスタングをモデルにしていますが、その設定では1秒に35度以上のターンはできないとのこと。当初のストーリーボードでは、4秒で360度のターンをしているシーンもあったため、リアルな動きに見えるように、たびたび修正を行ったそう。エンジン音にもこだわり、時々、各キャラクターのモデルとなった飛行機のエンジン音を録音し、活用したそうです。
キャラクターたちのモデルとなった実際の飛行機は?
『プレーンズ』シリーズに登場する主なキャラクターたちは、どのような飛行機がモデルになっているのでしょうか?
ダスティは、エア・トラクターAT-502に小型飛行機セスナ、ドロマーダーの要素を混合したものがモデル。ダスティの師匠となるかつての海軍飛行隊員"スキッパー"のモデルは、戦闘機のF4Uコルセアだそうです。
"ブラボー"と"エコー"は最新鋭ジェット戦闘機のF/A-18F スーパーホーネット、"ネッド"と"ゼッド"は曲技飛行用飛行機のジブコエッジ540を思わせます。"サクラ"の機体後部は、ビーチクラフト・ボナンザの特徴でもあるV字型。
このほか、メキシコ代表の"エル・チュパカブラ"のモデルはジービー・モデルR、イギリス代表の"ブルドッグ"のモデルはデ・ハビランド DH.88 コメットと、ともにレース用飛行機がモデルであるようです。
空中消火隊との出会いが生んだダスティの"第二の人生"
『プレーンズ』で、小さな町の農薬散布機から、世界的レーサーへの変身を遂げたダスティですが、続編を作るにあたり制作チームは、ダスティにこれまでとまったく違った世界での冒険をしてほしかったそう。続編『プレーンズ2/ファイアー&レスキュー』(2014)では、彼は空中レスキュー隊員として奮闘することになります。農業用飛行機の歴史をリサーチするなかで、畑に農薬や肥料をまくだけでなく、ときには消火活動にも使われていたことがわかったのだそうです。
続編にあたりリサーチしたのは、米カリフォルニア州森林保護防火局の消防隊がいるエアアタック基地でした。視察のなかで、消防飛行機の多くはもともと、軍事偵察機など別の目的のために作られたものであることも判明したといいます。そう、実際の彼らもダスティと同じように、第二の人生(機生?)で新たなミッションに挑戦していたのです!
作品完成前の試写会には消防隊員たちを招待し、さらなるアドバイスをもらい、作品に生かしたそうです。
何度見ても楽しい!イマジネーション溢れる遊び心
リアルさを追求しつつも、空想世界の遊び心を散りばめられるのが、アニメーション映画の魅力。例えば、ダスティたちが暮らすプロップウォッシュ・ジャンクションがある平地は飛行機型、街の通りは空港の誘導路のよう。建物の屋根がプロペラなど、飛行機のパーツを思わせるものになっていたり、飛行機型の雲がところどころに出現したりと、飛行機愛にあふれるこだわりがたくさんあります。
キャラクターは、リアルなサイズ感を大切にしつつも、モデルとなった実際の飛行機よりも、ほんの少しふくよかで、操縦席上の円蓋を高めにすることにより、目の表情をわかりやすくするなど工夫もされているそうです。
飛行機マニアの方々にもきっと納得して楽しんでいただける、制作チーム渾身の『プレーンズ』シリーズ。飛行機に魅せられたクリエイターたちと専門家の飛行機愛を感じながら観直すと、その空の世界は少し違って見えてくるかもしれませんね。
*本記事の作品公開年はアメリカ公開の年を記載しています