ジェラルド・スカーフェという人物を知っていますか?きっと多くの人にとっては初めて聞く名前でしょう。映画『ヘラクレス』(1997)を観たことがある人は少なくないとは思いますが、実はこの作品を語る上でかかせない人物こそ、イラストレーターのジェラルド・スカーフェその人なのです。
彼はいったいどんな人物なのか、そしてどのように『ヘラクレス』の世界を作り上げたのでしょうか。
スカーフェのファンだった監督たち
『ヘラクレス』の監督を務めたのは、『リトル・マーメイド』(1989)で成功をおさめたジョン・マスカー&ロン・クレメンツ。彼らは手紙で、『ヘラクレス』の制作への参加に関し、ジェラルド・スカーフェに依頼しました。
当時のことをスカーフェは語ります。
「ずっとディズニーのファンだった私にとって、それは素晴らしい機会だった。それに、16歳の頃からギリシャ芸術にとても興味があったからね。ロサンゼルスに監督のロン・クレメンツとジョン・マスカ―に会いに行くと、彼らが学生時代にシカゴのギャラリーで私の作品を見て以来、ずっと私のことに注目してくれていたことを知ったんだよ。」
ディズニー史上2人目の外部デザイナー
マスカーとクレメンツのラブコールによって『ヘラクレス』の制作に参加することになったスカーフェですが、ディズニーが彼のような外部のデザイナーと仕事をするのはサルバドール・ダリ以来でした。
「ディズニーのアニメーターと最初に会うときは緊張したよ。彼らが外部のデザイナーと仕事することに慣れていないのは知っていたからね。でも、会議で彼らにポジティブな反応をもらってからは、ワクワクしながら制作に取り組むことができたよ。」
すべてのキャラクターデザインを指揮
制作が進むうちに、スカーフェの役割は次第に大きくなり、最終的にはプロダクションデザイナーとして、全てのキャラクターデザインにかかわることになったそうです。
「アニメーターたちの絵を見て、私のスタイルをそこに反映することが私の仕事だった。毎週、アニメのサンプルが私の元に届くので、それらをトレースして私のラインやスタイルを加えていくんだ。」
彼は、自分のスタイルを強制せずに、あくまで助言するかたちで、ディズニーのアニメーターたちとの制作を進めていきました。
「それは手術みたいなものだったよ。私は医者のように、彼らの持ってくる絵に対して『足はこんなに長い必要がある?』とか『鼻はこんなに小さくていいのかな?』などアドバイスしていったんだ。」
デザインが一番むずかしかったのはヘラクレス
さまざまなデザインの試行錯誤が行われたというヘラクレス。当初、エルビス・プレスリーかポール・ニューマンをモデルにする案があったそうですが、最終的にはシンプルに強くたくましい男として描くことになりました。
さらに、ヘラクレスには、ハンサムなヒーローであると同時に少しとぼけた要素が必要でした。当時のことをスカーフェは振り返ります。
「ひとつのキャラクターというものは突然現れるんだよ。いくつもの案がドローイングボードの上でオーディションされていくんだけれど、どうもしっくりこない。ところが、突然『これだ!』と思う瞬間が訪れるんだ。ヘラクレスの場合、頭でっかちに作業するのではなく、キャラクターが何を感じるかを感じ取るようにしたんだ。」
とびきり恐ろしくデザインされた悪役たち
『ヘラクレス』に出てくる悪役たちは、どれも恐ろしい姿のキャラクターばかりです。彼らの登場シーンは、まるで彼らが主役のように表現されています。
子どもの頃、『白雪姫』(1937)の女王がとても怖かったと言うスカーフェは、『ヘラクレス』に登場する悪いキャラクターたちも、本当に恐ろしく描くことにしたのです。
「火と暗闇の地下に住むハデスは、陰気で皮肉な生き物で、そして炎そのものなんだ。感情が高ぶるとアッという間に燃え上がるし、くすぶっている燃えカスから大きな炎も作り出せる。彼の髪の毛は常に燃えて、指先には火種がちらつくんだ。」
ディズニー映画に特別な視点をもたらしたスカーフェ
制作期間中、アニメーターたちのデスクには、"スカーフェとディズニーの融合"と書かれたメモが貼ってあったそうです。
当時を振り返ってスカーフェは語ります。
「この映画には私の作風が大いに活きている。当然、これは私の人生の中でも最高の出来事だった。まるでトム・クルーズと知り合いになったような素晴らしい経験だったと、いつも思うよ。」
ギリシャ芸術のもつパワーと優雅さを、自身の作品のもつリズミカルでカリグラフィー的な要素をうまく合体させたスカーフェ。彼のデザインセンスが、他のディズニー映画とは一味異なる特別な視点を、本作にもたらしたのです。
*本記事の作品公開年はアメリカ公開の年を記載しています

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